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審査員が見たカンヌライオンズ2023

カンヌ2023に学ぶ:Vol.4細田高広「AIには解けない課題がある。人間性と創造性が賞賛された」

サステナビリティは地球環境とビジネスの循環

 ――審査をされる中で細田さん自身はどのような学びがありましたか? また、日本のマーケターや広告に関わる人が取り入れると良いと感じたポイントを教えてください。

 2つあります。1つは手前味噌ではありますが、TBWA HAKUHODOがイノベーション部門でゴールドを獲得した「SHELLMET」の話です。北海道・猿払村で、年間4万トンの貝殻が廃棄されていて、放置すると土壌汚染の要因にもなっていました。この貝殻を素材にしてヘルメットにしたというものです。評価のポイントを聞いてみると、環境にいいだけでなく利益が生み出されて、村や会社などに配分され、次の事業を継続させることにつながっていく。広い意味でのサステナビリティが非常に高く評価されていました。サステナビリティの視点は、地球にいいことだけでなくビジネスの循環にまで広がっているのです。

「SHELLMET」

 もう1つは、テクノロジーのバイアスという問題です。ある出品作の1つに、ディープフェイクを見破るテクノロジーがありました。会話している映像を測定して、それがリアルかどうか見抜くというものです。一見すると、すごい技術に感じますよね。しかし、ある審査員がこれはおかしいと異を唱えました。その人は肌の色が濃い方だったのですが、「濃いトーンの肌にはこのテクノロジーが使えないはずだ」と言うんです。こうした技術に潜む無意識のバイアスはスマートウォッチの心拍計測センサーや顔認証などいたるところで見られ、世界的に問題になっています。

アクセシビリティの本質は副作用に目を向けること

 ――人間だけでなく、テクノロジーにもバイアスがあるのですね。

 恥ずかしながら、すぐに問題に気がつくことができませんでした。もちろん、問題はテクノロジーのバイアスだけではありません。実は今回、イノベーション部門の審査員はあらゆる側面からダイバーシティが考慮されていました。エスニシティ、宗教、性的指向も含めて様々な方がいて、多様な切り取り方で評価が進みました。ダイバーシティがなければ、適切にイノベーションで人類の進化を評価できないのだと強く感じます。

 ――身近なテーマでも、インクルーシブとは言うもののやったつもりになっているケース、見落としがあるケースもありますね。これを防ぐためにはどうすれば良いとお考えですか?

 ひとつの技術やアイデアの副作用・反作用を意識することが大切ですね。誰かにとってすごく良いものを考えたときに、そこにアクセスできない人や、それが逆の効果を及ぼす人はいないだろうかという発想を持ち込むのです。光がある所には影があります。影の部分を一度議論することが非常に重要だと思います。私も今回の審査を通して、それが本当のアクセシビリティやインクルージョンという概念の本質だと改めて感じました。

 ――ターゲットのベネフィットやペインに集中しがちですが、スコープから外れた所でどのように作用するかが重要という視点は非常に大切なポイントだと感じます。本日はありがとうございました。

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この記事の著者

伊藤 桃子(編集部)(イトウモモコ)

MarkeZine編集部員です。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/08/03 10:25 https://markezine.jp/article/detail/42720

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