深刻なCMO人材の不足
MZ:大手企業から中小、スタートアップ、BtoC/BtoBなど様々な企業のマーケティングを支援されている立場から、企業のマーケティング組織の現状をどうご覧になっていますか? 課題を挙げるなら何でしょうか。
田岡:課題は大きく3つあります。1つ目は「CMO人材の不足」で、これが最も重大だと感じています。
昨今、日本でも多くの企業がCMOという役職を置き始めています。これには色々な背景がありますが、ひとえに全体最適の重要性が高まっているからと言えるでしょう。Howが増大している今、事業成長に何が貢献しているのかを俯瞰で見るCMOの役割はとても大きくなっています。ただ、日本にはCMOの経験がある人は少ない。なぜなら、CMOという打席自体が、これまで少なかったからです。ここは鶏卵でもありますが、全てを集約し、意思決定をしていくことの難しさと責任の重さを担える人材が、今日まで結局生まれてきていないというところに問題があると思います。
2つ目の課題は「組織のマーケティングリテラシーの底上げ」です。Howのマーケティングが増え、社内でも業務や役割が細かく分類されるようになりました。ともすれば、代理店やパートナー会社も領域ごとに細々増えている。そんな中で、マーケティング戦略の上流であるWHO/WHATに立ち戻って考えられる、つまり戦略的にマーケティングを考える組織になれていないという課題が今浮き彫りになっているように感じます。これには、戦略的マーケティング思考を教える人が組織にいない、もしくはそういう仕組みや枠組みが組織にない、といった要因があります。
最後に3つ目の課題として、「ステークホルダーマネジメント」を挙げたいと思います。先述したように、組織作りが多様化している今、事業主のマーケターは社内外の様々な人を巻き込み“ワンチーム”にしていく必要があります。ブランドや事業のミッションやビジョンを提示し、個々人の強みを引き出す。これまで社内における人材のマネジメントで考えられてきたようなことが、今ステークホルダー間でも重要になってきているのです。
強いマーケティング組織を作るには?
MZ:ここまで伺ってきた背景や課題を踏まえて、マーケティング組織を強化していく際のヒントをいただけますか?
田岡:組織の話になると、どこがイニシアチブを持つのか、誰が意思決定をするのかなど視点が社内になってしまいがちですが、組織作りにおいても“顧客中心”で考えることが重要だと思います。BtoCでもBtoBでも“購入”という最終判断は顧客がしていますから、“顧客から組織を考える”のは当たり前のこととも言えます。

この前提があった上で、強いマーケティング組織を作るために欠かせないと思っているのは、言語の統一です。これには2つの意味があって、1つはいわゆるマーケティング用語としての言語を指しています。たとえば、会議の中で「インサイトは何か」という話をしている時、インサイトという言葉の定義自体が共有されていなかったりしませんか? 顧客の潜在的な課題について話しているのか、クリエイティブを考えるためのヒントについて話しているのか、よくわからずに議論が進んでいるということはよくあると思います。
もう1つは、WHO/WHATの統一です。susworkでは、プログラムの始めに「御社のお客様は誰ですか」「提供している商品・サービスは何ですか」「それはひとことで言うとどんな価値を提供していますか」という3つの質問をします。プログラムは、マーケティングチームだけでなく、営業やカスタマーサクセス、エンジニア、時には代理店の方にも入っていただくようにしているのですが、皆さん本当に答えがバラバラなんです。ここのベクトルを揃えるという意味でも、言語の統一が必要です。