商機はデータにあり AIの力で有効活用を
──今号のテーマは「転換期に商機を見出す」です。ここまでうかがってきたトレンドや変化を踏まえて、豊島さんは2023年の商機がどこにあるとお考えですか?
データに商機の可能性があると考えます。実際、2023年はサードパーティデータをファーストパーティデータと連携するためのデータクリーンルームをプラットフォーマー各社が次々と提供し始めています。
保有データのスケールにもよりますが、ファーストパーティデータが十分に集まっていれば、サードパーティデータと連携することでデータの精度が上がり、大きなマスを捉えることができるほか、特徴も細かく把握できるようになります。まだそこまでできるプラットフォームは数少ないですが、そのうち多くのプラットフォームで実現可能になるはずです。
だからこそ「自社のお客様にはどのような人がどれくらいいるのか」そして「どういう人に買ってもらいたいのか」「そのためには何をすれば良いのか」を明確にする必要があります。これはどの業種においても当てはまることでしょう。ただ、ファーストパーティデータは一定のボリュームに達するまで貯めるのが大変です。企業側はデータを提供してもらうにあたり“消費者にとってのメリット”をしっかりと見せなければなりません。
これまでは施策のパターンを作り分けるにあたり、デザイナーがクリエイティブを何百通りも用意していましたが、生成AIなら一定の法則に従って自動で作り分けることができます。また各種AIを組み合わせることで、今後は「どのメッセージならその消費者に響くか」という予測もできるようになり、結果、生成AIの導入も一気に進むでしょう。
──データ連携に関して、具体例をお聞かせください。
メーカーと小売を例に説明します。メーカーはこれまでお客様との直接の接点がほとんどなかったため、お客様の顔が見えづらい業種だと言われてきました。一方で小売は、目の前のお客様の顔はよく見えるものの、大量の商品を扱っているため「お客様がどのような理由で商品を購入しているか」についての知見が十分ではありませんでした。
しかし、最近はこの傾向が変化しているという話をよく耳にします。なぜかというと、小売側が保有するデータとメーカーが持つデータをつなげることで、お互いを補完することが可能となったからです。メーカーからすると、オウンドメディアで収集してきたファーストパーティデータを、小売の販売データ、すなわちサードパーティデータとつなげることで、顧客像をリアルに捉えられるわけです。
──ファーストパーティデータとサードパーティデータの連携により、具体的にどのようなことがわかるようになるのでしょうか?
客層やチャネルという概念ではなくライフ起点、つまり価値観単位で顧客を見ることができるようになると思います。たとえば、ビジネスシーンではブランド品を身に着けるが、普段着はプチプラ品を選ぶ人がいるとします。この場合「高級ブランドが好きな人」「プチプラブランドが好きな人」というセグメントで分類することは難しいはずです。
また、GMS(総合スーパー)の利用者の中にも「施設内のこのエリアは好きだけど、別のエリアには足を向けない」という人がいます。この場合もチャネル単位で分類すると「GMS利用者」という括りになりますが、これではその人の消費行動を正確に捉えられていると言えません。いずれの人も価値観を起点に動いているからです。価値観単位で顧客を捉えることにより、客層やチャネルの違いに関係なく、網羅的に消費者を捉えられると思います。
しかしながら、価値観で一人ひとりを括っていくと膨大なパターンが発生し、人間の手には負えなくなってきます。そこで有効なのがAIです。「この人はこのような価値観で行動している」といった傾向を探り当ててくれます。
──大企業のように体力がなく、AIなどのテクノロジーにそこまで投資できない企業の場合は、どうすれば良いでしょうか?
小回りが利く点を活かし、特定の塊に狙いを定めてピンポイントに攻める方法が挙げられます。大企業は網羅的に見る傾向があるため、その隙間を狙っていくイメージです。たとえば、アンケート調査やWebサイトの行動解析によって「このような価値観を持っている人がこれくらいいる」という具合に、共通の価値観を持つ人の塊を見つけることはできるはずです。また、インフルエンサーの周辺には1つの塊ができているため、インフルエンサーとの提携を検討しても良いと思います。
商機を見出すマーケターになるための心得
──広告会社やコンサルティング会社など、ビジネスをサポートする側にいるマーケターが意識すべきポイントを教えてください。
AIをはじめとするツールは、今後一気に使いやすくなると思います。当面はマーケター自身がプロンプト(AIへの指示)を美しく書くスキル、自分の思いどおりにプロンプトで表現するスキルが価値を持つのではないでしょうか。
そして自分でフレームワークを考えられること。フレームワークを使うのではなく、生み出せるようになることです。少し前までは一部の天才たちがフレームワークを生み出し、それを皆が使って効果を出すケースがほとんどでしたが、今後は自分でフレームワークを生み出すスキルが重要になってくると思います。
──一部の天才が生み出してきたフレームワークを、そう簡単に生み出せるものなのでしょうか?
法則性を見出して、まずは正しく理解する。それをAIに覚えてもらって動かす。トライアンドエラーを繰り返しながら、生み出していけると考えています。
──最後に、商機を見出そうと奮闘する読者に向けてメッセージをお願いします。
トレンドを捉えていなければ商機を見出すことは難しいため、当社が発行するライフトレンドをぜひ参考にしていただきたいです。社内にせっかく良い商品・サービスがあっても、消費者にその良さが伝わらなければ商機は得られません。消費者に良さを伝えるヒントになるのがライフトレンドだと思っています。
私自身はマーケター出身ではありませんが、マーケターの皆様から話をうかがっていると、本来の自分の仕事ではないことに時間をとられている方が多いように感じます。目の前のことだけに忙殺されると、本来自分が大事にしたい、チャレンジしたいと思っていたことを自然と遠ざけてしまいがちです。
この傾向は、今後パーソナライズが進めばますます強くなっていくでしょう。先に述べたとおり、非常に多くのパターンを考慮しなくてはならないからです。マーケティングは本来一人のお客様や1つの商品と向かい合うことであるにも関わらず、そのための十分な時間やケイパビリティが確保できなくなってしまいます。
このような状況を解決するために、外部のパートナーを頼るのも1つの手です。アクセンチュアは、CxOをはじめマネジメントクラスとのつながりがあるだけでなく、ライフ起点のビジネスやマーケティングにも精通しています。企業と生活者、経営層と現場、それぞれの観点をよく理解しているため、マーケターの皆様とともに声をあげ、商機を見出すサポートができればと思います。
