絶対的な正解より、アジャイルな施策展開が求められる時代
MZ:メディアプランニング×広告クリエイティブのPDCAは、どういった考え方で行われていますか?
西出:私は、広告出稿のマーケティングタイムラインの前半は「テストマーケティング」に近いものとして捉えています。何も出さない期間を作るよりも、デジタルで広告を回しながら広告効果を出しつつ、リサーチをかけていくイメージです。たとえば、はじめにデジタル広告を複数展開して、刺さるクリエイティブ要素を見つける。それを踏まえてより予算の大きい広告出稿に昇華させていくという風に、段階を踏んだプランニングができるとスピード感をもって統合マーケティングを展開できると思っています。

2016年に博報堂入社。TBWA\HAKUHODOに出向し、クライアントの統合マーケティング・コミュニケーションをコピーライターとして支援。2020年より現職。メディアコミュニケーションだけでなく、マーケティングの戦略策定からクリエイティブ制作まで一貫して担当している
具体例を挙げると、電車の中吊り広告を全国規模で展開するキャンペーンで、先行してデジタル広告を行い、中吊り広告の素材検証をしたことがありました。その時は情緒的価値と機能的価値を訴求する2軸で約100個のコピーを書き、デジタル素材を制作して効果を検証。加えて、素材を一般的なマーケティング調査にかけ、その結果とクリック率を掛け合わせて、中吊り広告に掲載するクリエイティブを決めました。プランニング次第では、こうしたアジャイルなキャンペーンの進め方も可能になります。
MZ:以前はマスを起点とし、デジタルでファネルを落としていくという設計の仕方が主でしたが、最近はデジタル起点の広告キャンペーンも主流になってきましたね。
貞包:そうですね。近年、認知と購買をつなぐ中間の「ミドルファネル」の重要性が高まり、注目されるようになってきています。ここで言うミドルファネルは、デジタル広告を中心に設計することが多いですが、アッパーからロウワーにシームレスにつながるミドルファネルを作っていくためには、アッパーファネルの再設計も重要となります。その際に重要となるのがミドルからアッパーに逆上がりし、アッパーファネルを再設計していく考え方です。ミドルファネルのデジタル施策で何がターゲットに響くのかを可視化し、その結果をアッパーファネルの施策立案に活かしていくのがポイントです。
西出:現在はマス、ソーシャル、屋外広告、CTVなど無数に出稿できる場があります。もちろん、マーケティングゴール上、マス広告が必須になるケースは多々ありますが、マーケティング戦略の根源的なところに立ち戻り「どこに生活者とのタッチポイントを置くか?」という思考法でフルファネルのコミュニケーション施策重心を探していくのが主流のアプローチになっていると思います。
PDCAを前提に、クリエイティブに可変性を仕込む
MZ:クリエイティブのPDCAに関しては、元の素材がある中での改善だと限界があると思います。ここで言うクリエイティブの改善というのは、どのようなイメージでしょうか?
西出:動画の場合は、パーツごとに区切ってトランスフォームできるように企画を作っておくというアプローチを取ることがあります。たとえば、起承転結のうち“起”だけでなく“結”から動画を始められるようにしておいたり、起承転結のどこでサービス名を出すかを可変的にしておいたり、といった具合です。とはいえ、ただ「運用すること」が目的化してパーツごとに区切るとクリエイティブの質が落ちてしまいますから、起承転結に一貫性をもたらす強い1つの企画軸が必要になります。以前は1つのクリエイティブの完成度を求めていましたが、最近は「トランスフォームできるけど面白い」といったことを意識するようになってきていますね。
特に、新しい商品・サービスを打ち出す時は、商材への需要がどこから生まれるかが定かではありません。ですので、「ターゲットペインを捉えるためのフックとなる15秒」「サービスの魅力を伝える機能紹介の15秒」などを数パターン制作し、15秒・30秒の尺で色々組み替えながら、反応を見ることがあります。