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MarkeZine Day(マーケジンデイ)は、マーケティング専門メディア「MarkeZine」が主催するイベントです。 「マーケティングの今を網羅する」をコンセプトに、拡張・複雑化している広告・マーケティング領域の最新情報を効率的にキャッチできる場所として企画・運営しています。

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MarkeZine Day 2025 Retail

田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

【前編】スケール化は生き残るための手段。星野リゾートの街ナカホテル「OMO」ブランド展開の背景を聞く

ブランディングで「コンセプト」を大事にする理由

田中:星野リゾートでは当初「運営の達人」というコンセプトを掲げていらっしゃいましたが、このミッションの示し方は素晴らしいと以前から思っていました。OMOも面白いコンセプトが設定されていますね。

中央大学名誉教授 田中洋氏
中央大学名誉教授 田中洋氏

星野:最近、スタッフが発案する言葉(コンセプト)が刺激的になっていると感じています。これは恐らく、普通の表現、刺激のない表現は好まない組織文化が星野リゾートにあるからです。星野リゾートでは、マーケティングチームが各施設にコンセプトワードを設定するのですが、それぞれ楽しいコンセプトになっています。たとえば、この「OMO3浅草」のコンセプトは「粋だねぇ、浅草上手」です。OMO5沖縄那覇は「バザールって、ちむどんどん♫」です。よくわからないでしょう(笑)。

【公式】OMO3浅草|2023年7月31日開業イメージ動画

田中:星野さんは、そういうコンセプトの力を以前から信じていらっしゃると思っていました。コンセプトは何にどう良い働きかけを起こすでしょうか?

星野:コンセプトがあることによって、現場スタッフの発想が豊かになると思っています。彼ら彼女たちが新しいサービスの魅力を考える時、その方向性を示したり、創造性が掻き立てられたりするという点で、コンセプトが大きくプラスになるのです。これがなければ、ホテルは“ただ泊まって寝るだけ”の施設になってしまいます。

 ですから、どちらかと言うと、コンセプトはマーケットに刺激を与えるより、社員に刺激を与えている部分のほうが大きいのです。社員がコンセプトから刺激を受け、創造性を発揮して、サービスに魅力や統一性が生まれる。それを顧客が感じるということになるのではないでしょうか。

ブランド毀損のリスクを過大評価していないか?

田中:ターゲットを表現する手法として、たとえばペルソナがありますが、星野リゾートではターゲットをどのように決めていらっしゃいますか?

星野:年代・男女などを考慮し、たとえば「12歳以下の子連れのファミリー層」という具合にターゲットを決めて、コミュニケーションを取るようにしています。長年経営をしていて私が感じているのは、ターゲットを絞ることを恐れないほうがよいということです。これはコンセプトに関しても同様です。ターゲットを絞って、施設のコンセプトを刺激的に表現することのほうが大事だと考えています。

 というのも、コンセプトやターゲットを設定したとしても、実際には様々なお客様がいらっしゃいます。「こんな風にコンセプトを設定してしまうとマズいのではないか」「こんなお客様もいらっしゃるのではないか」といった意見が出ることもあると思いますが、設定したコンセプトやターゲットと実態の違いをあまり気にする必要はないと思います。それよりも、世の中で際立つ・刺さるコンセプトを出していくほうが重要で、その刺さり具合が深ければ深いほど、その顧客が周辺のマーケットの顧客まで引き連れてくることができるという感覚があります。

 マーケティングの理論やブランド理論をたくさん勉強したために、原理主義になってしまっている方も多いように思います。だから、結果的にコンセプトがぼやっとしてしまうのです。幅広くターゲットできるよう、誰にも嫌われないものにしようとしているのではないでしょうか。

田中:ブランド毀損については、どのようにお考えですか?

星野:私はブランディング戦略の王道を採用しており、ブランド毀損に対しては慎重なほうです。ブランド毀損がないように、ということは常に考えています。

 ただ、ブランド毀損のリスクを過大評価しないように、ブランド毀損を必要以上に恐れないようにもしています。というのも、いい情報を消費者に伝えていくのには、時間がかかりますよね。広告やパブリシティを用いても、情報は簡単には伝わらないものです。これと同様に、実際には、悪い情報が出回るのにも相当な時間がかかると考えています。

 たとえば、コンセプトワードや新サービスを開発する時、ブランド毀損の懸念は様々あります。ですが、「この表現はどうなんだ?」などと言い出すと、先ほど言ったように、ぼやっとした平凡なコンセプトになってしまいます。誰が聞いても絶対安全という枠を飛び越えない限りは、刺激的にはなり得ないわけです。コンセプトの刺激性とブランド毀損のリスク、この塩梅をマネジメントすることが必要だと考えています。

田中:コンセプトを組織に浸透させるためには、どうするのがよいでしょうか?

星野:星野リゾートには、コンセプトによる成功体験を積んできたメンバーがいて、彼らが議論をしながら進めていくプロセスがあります。何を重視してコンセプトを決めたか、それが結果的にどのくらいの集客に繋がったかという経験が組織に蓄積されているところが非常に大きいと思います。

後編では、「星野代表はなぜ経営に慎重なのか」「慎重な経営とアグレッシブな経営がなぜ両立するのか」「観光産業の労働環境の改善について」「星野リゾートの次なる転換点」といった内容をまとめています。ぜひあわせてご覧ください。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/07/31 18:28 https://markezine.jp/article/detail/42801

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