リファレンスドキュメントを作成しよう
――次に「4.マーケティングに関するデータの定義や見方をまとめたドキュメントを作成すべし」についてうかがいます。なぜこうしたドキュメントを用意しておく必要があるのか、教えてください。
橋本:私の経験上、マーケターが分析ツールに触れるときに分析軸や指標などの用語の定義が不明瞭なために、有用なデータであっても見られていないというケースをよく目にします。「このツール上で直帰率がどのように定義されているのか知らない」「CVRやカート投入率、読了率など、レポートに掲載されている指標がどのような計算式で算出されているのか、把握していない」などのケースが散見されます。指標の定義が曖昧では、その後のビジネス判断に迷いが生じるだけでなく、誤った判断によるミスリードにつながる恐れがあります。

橋本:そこで、たとえば「動画視聴完了率」という指標に対して「動画の視聴開始数を視聴完了数で割った値」と、きちんと明記したドキュメントを作っておくと、同じくデータ分析に携わっているチームメンバーとの齟齬を防ぐことができます。
飯島:アクセス解析ツールが出力するデータは、そもそも誰かが定義した用語に基づくものです。その定義が周知されていないと、定義した当人以外は出力データが何を表しているのか理解できません。そのため、用語の定義を詳しく記載した「リファレンスドキュメント」の作成をおすすめします。
梅澤:言葉の定義だけでなく、セグメントの定義も重要です。セグメントの定義が不明瞭なままだと、別の人が同じセグメントを利用して広告やメルマガを配信するのが難しくなります。少なくともそのセグメントが「どのような目的で」「どのような層の顧客を対象としているのか」を明確にしておきましょう。
ドキュメントはクラウド上で管理し、日々更新
――用語の定義を明記したドキュメントを作成しておくことの重要性は理解できましたが、一度作成されただけで更新が行われず放置されてしまうことも少なくないと思います。そうした課題の解決法を教えてください。
飯島:ローカル環境や特定サーバー上のWordやExcelファイルでドキュメントを作成・管理してしまうと、更新が行われずに放置されがちですね。私個人としては、SharePointやWiki、BIツール内にデータを保存しておくことをおすすめします。そうすることで、全員がいつでもアクセスでき、最新の情報を参照できるからです。

橋本:私からもう一つ、定期的なドキュメント更新を促すためのおすすめの方法をお伝えします。それは、新人向けのトレーニングの機会を活用することです。たとえば、新人を対象としたデジタルマーケティングに関するトレーニングを毎年行うとしましょう。彼らに対しては正確な用語の定義や、最新のUIに基づく画面の操作方法を伝えるため、トレーニング実施前には必ずドキュメントを最新の状態に更新する必要があります。このように、社内向けのトレーニングの機会をうまく利用して、定期的にドキュメントを更新するようにしてみてください。