2つの交絡因子に注意してブランドリフトを測る
傾向スコアを用いた調整は、広告が消費者の態度をどの程度変容させたかを評価する「ブランドリフト調査」と親和性があります。ブランドリフト調査は、広告接触者と広告非接触者を特定し、アンケート調査によって、両者のブランド・商材の認知、好意、購入意向を比較することで消費行動に与える広告効果を明らかにします。ブランドリフト調査において、交絡因子となりうる属性や要因は、主に以下の2つがあると考えられます。
1つ目は、当該の商品カテゴリの利用・購入頻度などの「関与度」です。たとえばWeb広告であれば、Web上の行動履歴によってレスポンスの高そうな消費者へのターゲティングが可能であるため、同じカテゴリの購入経験のある消費者や、興味関心の高い消費者に広告が届きやすくなります。その一方で、こうした消費者は、広告に接触していなくてもブランドに対する認知や好意、購入意向が高いとも考えられます。
2つ目は、出稿先メディアの「利用頻度」です。たとえば、動画メディアに広告を出稿する場合、その動画メディアをよく利用する人は、広告に接触する確率が高くなります。加えて、普段からその動画メディアを通して様々な情報を得ていた場合、特定のブランドを認知する機会が多い可能性があります。

こうした交絡因子が存在するため、単純な比較では正しい効果測定が行えません。ですが、ブランドリフト調査はアンケート調査であるため、認知・好意などの態度変容指標と同時に、交絡因子となりうる要因を聴取することが可能です。カテゴリ関与度やメディア利用頻度を取得し、傾向スコアによる調整を行うことで、確かな効果測定を実現できます。
行動データに適した「施策の前後を比較する手法」
ここまでは、アンケート調査などによって、交絡因子と考えられる属性や要因が個票データとして入手できているケースを考えてきましたが、そうではないケースも多くあります。
たとえば、前編で説明したような、メーカーが自社ECサイト上でクーポンを取得できるキャンペーンを実施し、その効果測定を行うようなケースです。クーポン獲得顧客と非獲得顧客で施策期間中の購入金額を比較する場合、「ロイヤリティ」が交絡因子となりえますが、分析対象者全員からアンケートなどで「ロイヤリティ」のデータを得ることは難しいケースも多いと考えられます。
こうしたケースでも、それぞれの顧客のキャンペーン期間中(ポスト)と、期間前(プレ)の購入金額のデータさえあれば、「ロイヤリティ」などの属性や要因の違いを除去でき、正しい効果測定が実現できる可能性があります。