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MarkeZine Day 2026 Spring

田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

【前編】田中教授が「実務家であり論者」と呼ぶダイキン片山義丈氏。両者が“ブランド”をテーマに対談

「空気で答えを出す会社」に至るまで

田中:ダイキンさんの国内外での事業概況がよくわかりました。私は以前から、ダイキンさんは、自社についての説明の仕方がとても上手だなと思っていました。片山さんは、ダイキンという会社を説明される時、どういう説明の仕方をされていますか?

片山:本当は「空気で答えを出す会社」と言いたいのですが(笑)、残念ながら今はその一言だけではさすがに通じない部分があるので、「ダイキンは空調で世界で一番売上をあげていて、これからも空調を中心にビジネスを広げながら、空気の力で幸せをつくろうとしている会社です」という説明の仕方になるでしょうか。

田中:日本語で言うと「空気で答えを出す会社」、英語で言うと「Perfecting the Air」を展開されているとのことですが、ここに至るまでの成り行きを教えていただけますか?

片山:昔、社内でダイキンというブランドについて議論しようとすると、「ダイキンは、ブランドがないのがブランドなのだ」というような声が挙がるほど、ダイキンでは自分たちが何者なのかが社内で明文化されていませんでした

 しかし、「ダイキンって何者?」と問われた時、「大手空調メーカーです」と名乗るだけでは、なかなか立ち行かない時代になってきました。特に環境問題に対面する時には、“空調”“エアコン”以外の角度から、自分たちが何者なのかを示していかなければならない。そのような状況変化の中で、2015年に2020年に向けた中期経営計画で企業として目指す姿を「英知と情熱を結集して空気と環境の新たな価値を共創する企業」と定めました。ダイキンの経営理念(企業人格・文化・大切にする価値・暗黙知)と、中期経営計画(ダイキンが目指す姿・発展の方向性)を礎とし、ブランドとして伝えるべき内容を言語化したものが「空気で答えを出す会社」です。

ダイキン工業の企業広告「空気の可能性」篇(60秒)

 ありがたいことに社外の方からは、ブランド・パーパスの良い事例であると評価をいただくことが多いのですが、社内においてはあくまでも経理理念と中期経営計画を礎としたコミュニケーションワードという位置づけです。ですから、パーパスやブランディングの括りで会話されることはほとんどありません。中期経営計画にパーパスの核となるものが組み込まれているため、そこから生まれた「空気で答えを出す会社」は、自然とパーパスを表現していると考えています。

「空気で答えを出す会社」が社内・ステークホルダーに上手くワークした理由

田中:「空気で答えを出す会社」というのは外にはもちろん発信していらっしゃるのですが、インターナルにも発信していらっしゃるのでしょうか?

片山:社外に向けたコミュニケーションワードと言いましたが、私の中では、社内のほうも強く意識しています。「ダイキンはこんな方向に向かっていこうとしている」「中期経営計画で目指す姿とは、大きく捉えるとつまりこういうことですよ」と社内に呼び掛ける形です。繰り返しになりますが、そもそも「経営理念」と「中期経営計画」から生まれていますから、社内でもこのワーディングに対する大きな違和感はありませんでした。

 一方で、他の会社さんでは、本社がブランドに関する方針を定めたら、翌日からブランドロゴの下にタグラインとしてそれを反映させる、有無を言わせず使ってもらう、というようなことになるのかもしれません。ですが、ダイキンの場合はそうはいきません。変化の激しい時代にビジネスを展開するにあたり、現地の状況を熟知するローカル各国に意思決定の多くが任されています。そのため、基本的には、コミュニケーションワードの使用についても、ローカル各国が納得が大前提で、強制しないのがダイキンの方針です。

 これまで日本で作ったコミュニケーション関連のワーディングはなかなか使ってもらえませんでしたが、「空気で答えを出す会社」はヨーロッパ以外のほとんどの国で使われています。これは、経営理念と中期経営計画に紐づいているのが最重要ポイントではあるものの、我々の部署のメンバーが海外現地まで何度も足を運び、この「Perfecting the Air」について説明し議論を重ねたことが非常に大きいと考えます。

田中:なぜ、ヨーロッパではPerfecting the Airはあまり使われていないのでしょうか?

片山:ヨーロッパでAirと言うと、「冷房」のイメージがあるようです。そのため、本来伝えたい「空気で答えを出す会社」の言葉の真意が「Perfecting the Air」では必ずしもうまく伝わらないことが課題です。

 ただ、我々は言葉を一言一句同じにして統一することにはあまりこだわっていません。実際、アメリカでは「Perfecting the Air We Share」と「シェア」が付け加えられています。表現の方向性は同じですから、その国々で伝わりやすい言葉で問題ありませんし、意味合いがしっかり伝わることこそが一番大事だと考えています。時折、「そんなにバラバラでいいんですか?」とも言われますが、「空気で答えを出す会社」と「Perfecting the Air」も微妙に意味合いは違います(笑)。

 「Perfecting the Air」という言葉に統一したとしても、英語が母国語でない人と母国語の人とでは、言葉から受ける印象や情報も異なるのではないでしょうか。「空気で答えを出す会社」の真意が伝わる伝え方で、現地の人が腹落ちして自発的にいろいろなタッチポイントで使ってもらうことがより大切であるというのが大方針です。

次のページ
「空気で答えを出す会社」を体現してゆく

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/09/13 09:30 https://markezine.jp/article/detail/43145

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