※本記事は、2023年8月25日刊行の『MarkeZine』(雑誌)92号に掲載したものです。
広告エージェンシーの企業価値、成長/非成長の要因は
右ページのグラフは、GAFAMおよび広告・マーケティングの領域にいる企業の、2018年と2023年の企業価値推移を横並びにしたものだ。5年前と比較すると、成長の差がくっきり見える。各社の価値成長の理由探し=ミクロ分析ではなく、マーケティングにおける世界市場やその動向を俯瞰で見る=マクロ理解への一助とした。
図表1で目を引くのは、米国のTheTradeDesk(以下、TTD)の驚きの成長具合だ。2021年頃に起きた「オンライン特化型ビジネス」のもてはやし熱から少しブームが過ぎ去った今でも、まだこの状態である。
広告エージェンシーの中でも価値を「成長させた」企業と「できなかった」企業との差は、GAFAMとのマクロレベルでの接続の差とも言える。ここで言う「GAFAM接続」とは、国内マーケットに閉じた視点ではなく、地球をまるっと包括するようなパワーを持ったものだ。
たとえば、DSPプラットフォームのTTDがCTV広告市場やリテールメディアをオンラインに取り込み、「GAFAM接続」による自動化で広告主の利用を促したのは典型的な成長例だ。欧米の広告ホールディングスのPublicsとOmnicomは旧テレビメディアを保持しつつ、GAFAMをパートナーとして、デジタルとの融合をグローバルに進めアカウントを伸ばしていった。一方、国内マーケットを起点とする日本の広告エージェンシーは、GAFAM接続が国内に偏り、グローバルでの成長メリットを掘り起こせぬままで、企業価値に及ぼすインパクトが小さくなっている。
今後も伸びるだろうと思われる「未来への期待価値」を見てみよう。電通グループ(以下、電通G)の営業利益は1,000〜2,000億円、博報堂DYホールディングス(以下、博報堂DYH)は600〜700億円規模であるのに対し、TTDは黒字ながらも150億円ほどだ。
ところが現在の企業価値が「EBITDA(本業の利益)の何倍か」を示す「EV(EnterpriseValue)/EBITDA」倍率になると、TTDはなんと200倍!の企業価値を持つ。TTDを買収して営業利益で元を取るには、200年かけて投資回収するほどの価値が期待されている状況だ。PublicsやOmnicomなどが代表する広告エージェンシーの相場は8〜10倍なので、TTDは比べ物にならない新たな未来価値を作ったと言える。
ちなみに、電通Gは5.8倍、博報堂DYHは6.7倍、サイバーエージェントは8.1倍。日本の小ぶりなエージェンシーが世界の巨人企業より倍率が低いのも、伸びしろの現れだろう。