ブランドはプラットフォーマーに駆逐されるのか
有園:なるほど。しかしその人に合うレコメンド商品を発送することは、Amazonなら可能かもしれませんが、一つひとつのブランドでは難しいと思います。もしその状況が発生した場合、あるいはAIコンシェルジュが商品をレコメンドする姿が理想型だとした場合、ブランドはどうしたら良いのでしょうか。その状況に対応できると思いますか?
高広:いや、プラットフォーマーでないとできないと思います。その理由は、検索の世界もデジタル広告の世界も同じですが、結局のところマッチングになるからです。マッチングなので、お客さんの数も商品点数も膨大で、かつこの2つをうまく結び付ける仕組みがないとできません。一企業や一ブランドで準備できる商材や集められるお客さんの趣味嗜好といった変数は、どうしてもその企業が提供している商品範囲とそれを利用するターゲット顧客数に限られますから、マッチング数が相当低くなると思います。なのでプラットフォーマーと同じことをやるのは相当難しいと思います。
有園:それで思い出したことがあります。この前の電通 榑谷典洋社長との対談で、「電通の大局観ですが、すべての企業がプラットフォーマーになっていく時代だと思います」という話が出たんです。
でも実際にプラットフォーマーを目指すとなると、正直難しいと言わざるを得ません。洗剤やハンドソープのように日本中の人たちが利用している日用品のメーカーだとしても、自社のECサイトのアクティブユーザーは多くはないと聞いたことがあります。
ユーザーが少なくてもそれ自体には大きな価値がありますが、もしプラットフォーマーを目指すのであればまだまだ厳しいという見方もできます。結局、ブランドの今後はどのようになっていくのでしょうか。

高広:先ほどの話に出た「すべてのブランドがプラットフォームになるだろう」という意味はおそらく「すべてのブランドはメディアになる」という言葉に近しいと思います。そして「すべてのブランドがメディアになる」ということは、自分たちが情報発信者になってお客さんとコミュニケーションを取ることになり、次の段階として商品やお客さんの情報が集まるプラットフォームになっていくという意味でしょう。もちろん、プラットフォームの定義にも寄るとは思いますが。
整理のために、Amazonなどのことを「メガプラットフォーム」と呼び、ブランドがプラットフォームになるといった場合を「プラットフォーム」と呼びましょうか。この両者、「メガプラットフォーム」とブランド単体の「プラットフォーム」との差は非常に大きい。たとえると「いろんな鉄道が集まるターミナル駅」と「私鉄の小さな駅」くらいの違いがあると思います。僕個人としては、ブランドは「メガプラットフォーム」にならなくてもいいと思いますし、そもそも「プラットフォームにならないと生きていけないのか」という疑問からスタートします。
有園:おっしゃることはよくわかります。誰もがプラットフォームを目指さなくてもいいのは確かです。
その一方、やはりブランドにとっても、データを集めることやそのためのコンタクトポイントを作ることは大事だとも考えています。たとえ「Prime Try Before You Buy」のようなサービスはできなくても、DtoCのモデルを大切にすることは変わらないと思います。「少ないデータでも持っている意味はあるのでしょうか」と疑問を呈するブランドの方もいらっしゃいますが、私はやはりそうしたデータ基盤を構築することに意味はあると考えていますし、それは今後のブランドにとって大切な戦略になるという考えです。
高広:データの持ち方によってはデータ推計に活用できますし、単純に人数だけを見るのではなく、「人数×平均購買単価」というカスタマーライフサイクルバリューを考えなくてはいけません。そもそもブランド企業が作るべきプラットフォームとメガプラットフォームとは性質が違うので、同じ括りで考えないほうがいいと思います。
そもそも一企業がプラットフォーム化するという話はインターネットの初期からあるのでそんなに新しいテーマではなく、「顧客と直接つながる場所が欲しい」「顧客データを収集したい」「購買頻度を上げたい」という3つの目的を目指してのことでしょう。それはやはりその企業のブランド圏では役に立つと思いますが、これが大きくなってメガプラットフォームになるという連続性はないでしょうね。