プロダクトの体験から有料転換まで一気通貫で磨いていく
──先述のコミュニケーションプラットフォーム戦略とインキュベーション戦略について、具体的な取り組みをうかがえますか。
コミュニケーションプラットフォーム戦略の主軸であるPLGは、米国のSaaS企業を中心に展開されるビジネスモデルで、一般的には人の手を介さずにフリーミアムからの有料転換を目指すプロセスと言われています。しかし、当社のPLGモデルは少し異なります。有料ユーザーを増やすには、入り口であるPQL(Product Qualified Lead:無料トライアルなどでプロダクトの価値を体験したユーザー)をどれだけ多く作れるかが重要です。そこからのアクティブ化、有料化をどれだけ最適化できるかが、マーケティングの肝になります。当社では新規で利用開始されたユーザーのPQL化(または高度な分析によるPQLの特定)をプラットフォーム上で行い、対象ユーザーに対してテックタッチ、およびハイタッチでのアプローチを行うというプロセスを実施。そのサイクルを一気通貫で洗練させています。
インキュベーション戦略は、2023年6月からBPaaSの取り組みとして「Chatworkアシスタント」というサービスを提供しています。まだ始めたばかりですが、従来お客様が抱えていた工数や負荷を大幅に圧縮できています。
──PLGのプロセスを洗練させているとのことですが、重点的にどこを磨いていますか?
PQLに対してスピーディーに最適な打ち手を講じるための「精緻なパターン化」です。ユーザーの行動データに合わせてヘルススコアの基準を設けており、スコアが一定以上になったユーザーに特定のアプローチを当てるというパターンを作成しました。加えて、ユーザーが所属する業界などセグメントによる掛け算を複数行うことで、パターンのメッシュを細かくし、かつ最適な選択を可能にしています。この実現にはデータの分析に関する人材が不可欠で、様々なレイヤーで人員を増強しました。
上流から施策まで、人材に幅
──成長の過程でマーケティングや組織のあり方が変化した部分はありますか?
「Chatwork」が事業として成長するフェーズになってからは、テックタッチで完結するユーザー体験を追求しつつも、いわゆるThe Model型の組織化も進めていきました。2020年以降は、SLG(Sales Led Growth)のモデルが洗練化されていき、マーケティングとセールスの組織も拡大してきました。かつコロナ禍によるDXの追い風もあり、一定まで順調に伸びていました。
一方で、SLGモデルはインサイドセールスや、カスタマーサクセスなどの人材を増やせば、その分ユーザーも増える構造です。言い換えると、売る人を増やさなければユーザーも増えません。非連続な成長を目指す場合、SLGモデルだけでは限界があると感じたのもその頃です。
そこで原点に立ち返り、たどり着いたのが中小企業向けプラットフォームとしての「Chatwork」でした。シンプルで直観的な操作性と、オープンプラットフォームの仕組み。プロダクト自体がユーザーを介してユーザー数を拡大させる上での最大の強みだと考えたのです。そこで2022年からは、とにかくサービスを使ってもらい、ユーザーにユーザーを増やしてもらうPLGモデルに寄せたマーケティングを始めた流れです。
──SLGからPLGに移行する中で、マーケターに求められる意識やスキルセットに変化はありましたか?
SLGのBtoBマーケティングの勝ちパターンはある程度決まっています。オンライン広告チャネルとSEOを最適化して、そこで獲得したリードをインサイドセールスに渡す。各スペシャリストがしっかり施策を回すことで結果がついてくる仕組みです。そこで各ファネルを埋められるような領域特化型の人材採用に力を入れていました。
しかしPLGに移行し、かつ中小企業をターゲットにした場合、従来の勝ちパターンをなぞるのではなく、ゼロベースでお客様が求めているものと今の我々のギャップを見極める必要が出てきました。中小企業と一口に言ってもITスキルや業態は様々です。たとえば、従来型のオンラインマーケティング手法で該当ターゲットへのリーチが十分かというと、必ずしもそうではありません。そこでオフライン施策の強化や、コミュニケーション自体を変える必要が出てきました。どこに誰がいて何を求めているのか、マーケティングの上流から俯瞰して設計する必要があり、そこを考えられる人材を増強中です。
特定領域の施策に特化した人材と、上流工程を担える人材どちらが良いという話ではありません。前者偏重からマーケティング組織として幅が広がってきたイメージです。