欲望を用いた広告配信のチャレンジ
現在、高見氏らはデモグラフィック、行動に次ぐ新たなターゲティング手法として「欲望」でセグメントし、デジタル広告の配信ができないかチャレンジをしているという。
「欲望ターゲティングで広告配信ができると、消費者の求めていることとのミスマッチを軽減できるのではないか。また顕在化した需要を刈り取り尽くした後の需要創出に有効ではないか。さらに先ほど紹介した女性のように良い顧客体験(CX)、すなわち嬉しい体験をを積み上げていくことで消費全体を活性化できるのではないかと考えています」(高見氏)
同社では11の欲望と電通の保有するデータベース(PDMデータ)のキーワード(ユーザーがサイトを閲覧した際にサイト上に存在したテキスト:接触キーワード)との相関を確認し、配信実験を行うことを検討中だという。実証実験のステップは次の4つだ。
Step1 DMP上でのマッチング
欲望データとDMPを突合し、欲望と関連性の強いキーワードを特定・抽出
Step2 配信セグメントの作成
DMP内の各IDに対して、各欲望の強さをキーワードベースでスコアリング、各欲望意向の強い人をIDベースで特定
Step3 配信
欲望の強い人をターゲティングし、各媒体で欲望に適した商材/CRを配信
Step4 検証
需要喚起できたかどうか、KPIをビュースルー検索リフトとして効果検証を行う
KPIについては配信をCV目的とせず需要喚起とするため、指名検索リフトにすることを検討しているという。つまり広告の接触vs非接触でのオーガニック検索で差分を確認し、広告接触者のほうが多い検索が多い場合は、需要喚起の効果があると判定するわけだ。
欲望視点でファネルも変わる
「さらに、現在マーケティング戦略立案にあたって基本の構造図として用いられるデュアルファネルも、欲望視点で眺めた際に進化の余地があると考えており、検討を進めています。」と高見氏。
昨今の消費行動を見ると、ブランドや商品の認知から始まらないことも多く、ファネルどおりに推移しないことも珍しくない。たとえば、欲望からニーズが生まれた段階で検索し、ヒットした商品を見てはじめてブランドを認知するといった場合だ。従来のファネルはあくまで送り手側の視点で構成されていて、ユーザー視点になっていない。欲望マーケティングをもとにファネルにすると次のようになる。
ポイントは2つ。まず1つ目は欲望起点であることだ。消費の起点はブランドや商品の認知ではなく、欲望からのニーズ発生となる。これまで需要喚起を行う際にはマス、ブロードといった広範囲にアプローチする方法しかなかったが、心=欲望を視野に入れたアプローチは需要を喚起する確度が高い。
もう1つは俯瞰視点であること。人はある商品の消費のみで生きているわけではなく、様々な商品の消費を複合的に組み合わせて生活している。そのためファネルは単一商品のみでなく、複数の商品を俯瞰で眺めるべきなのだ。
「点ではなく面で見ていくべき。派生消費への広がりを捉えることは、消費の全体像を理解する上で重要なのです」(高見氏)
単発の商品だけを追いかけても限界があることが見えてきた今、「欲望」のような様々な知見を共有しながらお互いが情報を共有しあい、前へ進むことがマーケティングの進化につながっていく。
「私たちは欲望を使いながら、マーケティングの進化にトライしていきたいと考えています」と高見氏は力強く語り講演を締めくくった。