CX向上支援における「四つの柱」
――SAPはCXの向上支援において、どのような戦略を描いているのでしょうか。
私たちは、クライアント企業への支援を次の四つの柱に基づいて進めています。
1.Connected
2.Adaptive
3.Data and insights
4.Focus

「Connected」は、フロントオフィスとバックオフィスを統合し、“ワンオフィス”として顧客体験の質を改善するための支援をします。
「Adaptive」は、構想を大胆に描きつつも、実際の改善は段階的に行うことで顧客ニーズに適応することを指します。
三つ目の「Data and insights」では、“input poor, output rich”の理念の下、AIを活用することで少ないinputにも豊富なoutputで応えていきます。詳細は後ほど、お話しします。
四つ目が「Focus」。顧客体験と一口にいっても、業界によってその在り様は様々です。そこで、クライアント企業が所属する業界の商習慣に合わせて支援します。
簡潔な入力で質の高い答えが得られるように
――input poor, output richとはどういう意味ですか?
これは、消費者の顧客体験とクライアント企業の業務効率化の両方を意識した考え方です。
前者の例として、オンラインショッピングの場面を考えてみましょう。ユーザーが商品に関する情報を探している途中で疑問や不明点が出てきた場合、以前は問い合わせフォームに様々な情報を入力する必要がありました(=input rich)。しかし、それに対する回答が的外れであることも多かったです(=output poor)。
後者の例としてはプライシングがあります。企業が自社の商品に適切な値付けをするためには、データによる裏付けが必要でした(=input rich)。しかし、ただデータを蓄積すれば良いわけではなく、分析し、施策に落とし込まなければ成果は得られない(=output poor)わけです。
ところが、今ではそれほど大量にデータを集めなくとも十分な解を得られるようになりました。その背景には「AI」の進化があります。たとえば、ChatGPTのようなAIをチャットボットに連携させることで、ユーザーは簡潔な入力で質の高い答えを受け取ることが可能です。つまり、消費者や企業は大量のデータ収集の手間を省きつつ、確かな成果を得ることができるようになりました。この現象をinput poor, output richと表現しているのです。
SAPでも2023年5月に生成AIを搭載した「Digital Assistant for CX」を発表しました(※3)。この新機能は、企業が保有する顧客データを基に、業務の最適化をサポートするAIアシスタントです。これを使えば、商談前の顧客情報の要約など、従来であれば多くの手間をかけて検索しなければ得られなかった情報を瞬時に入手できます。
※3 一般提供は2024年第1四半期を予定