「10の欲望クラスター」とは?
電通の消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN(以下、DDD)」では、独自に導き出した欲求項目の因子分析と価値観分析から「11の欲望」を抽出。これを消費および消費者分析の基本として用いています。
この11の欲望は、人として持つ“根源的な欲求”を集めたものです。ですので、どんな人でも、11すべての欲望を多かれ少なかれ持っていると考えられます。同時に、どの欲望を強く持っていて、どの欲望が弱いのかは、人それぞれ異なります。
では、11の欲望の強弱傾向で、似た人同士をグループ分けしてみるとどうなるのか――これを実験してみたのが、今回ご紹介する「10の欲望クラスター」です。
日本人を「欲望」軸でタイプ分けするとこうなる
ターゲット設定をする時、クラスター分析は有益な手法ですが、時系列での再現がうまくできないことがあったり、どの因子にも低く反応する低関与なクラスターが大きなボリュームを占めてしまったりすることがあります。使い勝手のよい形でクラスター分析をするのは、なかなか難しいものです。
その点「10の欲望クラスター」は、非常に再現性が高く、各クラスターの割合や特性も安定しています。実際、これまで2年以上にわたり計5回実施してきた「心が動く消費調査」のいずれの調査回で分析を行っても、同様の傾向で10のクラスターが出現しました。
また、一見、低関与な「冷静堅実型」クラスターも、普段の欲望の出方が控えめなだけで、“心が動く消費”の内容は他のクラスターと遜色がなく、ターゲットとなり得るケースが十分に考えられる結果でした。言わば捨て駒になるクラスターがないことも「10の欲望クラスター」の特徴です。現代の日本人を“欲望”を起点にタイプ分けすると、この10タイプになる、と言えるでしょう。
2023年前半、極めて平均的な「等身大に楽しむ善人」に変化が
それでは、DDD実施の「心が動く消費調査」において、10の欲望クラスターそれぞれの動向を観察してみましょう。昨年から今年にかけて、消費者の心に大きく影響するような出来事を挙げるとすると、やはり新型コロナウイルスの第五類への移行があります。これを念頭に置きながら、各クラスターの変化を見ていきます。
自分の趣味や「モテ」を重視――欲望の高いクラスター群
まず、個人的な欲望が高く、消費への反応も良いのが「360度パワフル」「わたしたちの好き最優先」「ネバー・オールド」「オウチ弁慶」の4つのクラスターです。これらのクラスターは、昨年時点で既に、心が動く消費をした人の割合が高い傾向にありました。
個人の趣味やモテることに関心が集中している「ネバー・オールド」のクラスターに至っては、昨年から今年にかけて心が動いた消費のスコアを大きく下げています。
「平穏」「安全」を重視――欲求・欲望が低いクラスター群
一方、欲求・欲望が低めで、昨年まで心が動いた消費もあまりないと感じている人が多かった「今を楽しむ自由人」「人並シンプル」のクラスターでは、心が動いた消費があったと回答する人の割合が昨年から今年にかけて増えており、他のクラスターと差を詰めるところまできています。
日本人を平均した欲望を持つ――「等身大に楽しむ善人」のクラスター
基本的に心が動く消費があったとする人の割合が高く、欲望・欲求に最高感度を持つクラスターの「360度パワフル」に続いて、心が動く消費体験をよくしていたクラスターが「等身大に楽しむ善人」です。
「等身大に楽しむ善人」は、まさに平均的な欲望を持った人たちです。遊興&解放の「本当はダメだけどだって」という欲望と、社会貢献&保守の「守りたいものがある」欲望がやや高めですが、あとは極めて平均レベル。「できれば好きなように楽しみたい。だけど、自分勝手にはなりたくない。家族や友人など周囲と一緒に遊びたい」と、我欲と社会性のバランスをとても大事にしている人たちです。
こんな欲張りすぎず、引っ込み過ぎない善人たちが、新型コロナウイルスの5類化で自己規制の必要がなくなり体験型の消費を中心に解放されたと分析できます。