P&Gが買収した「チャーリーバナナ」の例
田中:カスタマーマネジメントの良い例を教えていただけますか?
ルース:不思議な名前ですが、「チャーリーバナナ」という布おむつのビジネスがあります。今の時代、おむつは紙製のものが一般的ですが、環境問題のこともあり、実は多くのお母さんたちが布のおむつを使いたいと思っています。布おむつは洗濯しなければなりませんが、布おむつの良さが再認識されている流れがあるのです。子供にとって快適だったり、リユースできるからコスパが良かったり、環境にも優しいですからね。
チャーリーバナナは、ヨーロッパのある女性が立ち上げたビジネスです。彼女はこのビジネスをすべてオンラインで行っていたので、顧客情報を直接管理することができていました。そして、4年前、P&Gがチャーリーバナナを買収しています。P&Gは、布おむつの市場があり、子育てに熱心なお母さんたちは布おむつを使いたがっていると認識したんでしょう。
田中:どのようにカスタマーマネジメントを日々のマーケティング業務に落とし込んでいるかを知りたいです。今日のカスタマーマネジメントの業務では、データマイニングのスキルなどが必要なのでしょうか?
ルース:カスタマーマネジメントは、難しいものではありません。オンライン上で何か商品を買ったら、購入履歴が残ります。何を買ったか、いつ、どのくらいの頻度で、いくら使ったかがわかりますよね。ですから、たとえば、毎月ずっと買ってくれていたのに、どこかで買うのを止めたら、「待って下さい! 何か問題がありましたか?」と言えるわけです。顧客履歴にアクセスできなかった時代にはわからなかったことです。
田中:カスタマーマネジメントの考え方は、マーケティングの実務にどのような変化をもたらしたでしょうか?
ルース:とても大きな変化があったと思います。まず、製品や製品管理に従事するマーケターと同じように、カスタマーマネジメントにフォーカスするマーケ人材が必要になりました。どちらのマーケターも、製品と顧客の観点でROIを最適化することに時間を費やし、その結果で評価されます。
田中:P&Gの前のCEOは「カスタマー・イズ・ボス(お客様が上司だ)」と言っていましたが、その考えがより発展した形でしょうか?
ルース:昔のP&Gでも、やはりマーケティングの最高峰の仕事はプロダクトマネジメントでした。P&Gに限らず、以前はプロダクトマネージャーがP&Lを握っていることがほとんどでしたよね。ですが、P&Gも顧客をROIの観点から資産として見ることの必要性に気づき始めています。実際に、彼ら自身もD2Cビジネスを始めています。
田中:デオドラントは人に知られたくない類の商品だと思うので、D2Cとして良い取り組みですね。
ルース:そうですね。日常的によく使う商品なので、手元に切らさないことが重要です。「あ、そうだあれが切れそうだわ」と思って買い物リストに入れて買い物にわざわざ行く、というのではなくて、配送で商品を受け取れるというのはとても便利です。つまり、カスタマーマネジメントとは、戦略にほかなりません。
後編では、NYの最新マーケトピックス、残りの4つをご紹介します。
『歴史は繰り返す?今年春に起きたバド・ライトの大炎上など、ルース氏が提示した5つの最新マーケトピックス』