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生活者データバンク

生活者の価格受容性から考える「成功する値上げ・失敗する値上げ」/「適正価格はどこか?」を探る

テストケースにおける価格受容性把握の重要性

 今回は、2022年に値上げを実施した加工食品Aを対象に、適正価格を探る分析をお見せしよう。分析対象の加工食品Aは、2022年に約30円の値上げを実施し、マーケットシェアが急落、その後、他の商品の値上げもあり、シェアは回復に向かったが、値上げ前の水準には戻らなかった商品である(図1)。データは、インテージSRI+(※3)を利用し、スーパーマーケット業態を対象に加工食品Aの値上げ前3ヵ月間の日次データを用いた。

図1 加工食品Aの金額マーケットシェアの推移
図1 加工食品Aの金額マーケットシェアの推移

 まずは、この加工食品Aの値上げが生活者の価格受容性の観点から適切であったかを、販売価格と販売量のグラフから見てみよう(図2)。X軸は実際の販売価格帯を表している。棒グラフは販売価格日数構成比(%)であり、どこの価格帯でどれだけ販売されていたかの分布を表している。折れ線グラフは、1店日当たり販売個数(※4)を表し、価格帯ごとの売れ行きがわかる。

 棒グラフが一番高い価格帯が、最頻(定番)価格であり、そのときの販売個数は11.1個であった。加工食品Aは約30円値上げしたので、最頻価格が30円値上げされた場合を想定すると、販売個数は6.6個であり、値上げによって販売個数が約41%減少する可能性が示されている。

 つまり、データから30円の値上げは販売量の大幅な縮小が示唆されている。一方、最頻価格から10円までの値上げであれば、販売個数があまり減少しないが、10円以上の値上げから販売個数が大幅に減少することが示されている。

図2 加工食品Aの販売価格と販売個数
図2 加工食品Aの販売価格と販売個数

※3 SRI+(R)(全国小売店パネル調査)は、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より収集している小売店販売データ

※4 図2の折れ線グラフの1店日当たり販売個数は、1日当たり1店舗当たりの販売個数を表しており、店規模を考慮するために食品カテゴリーの週販100万円あたりに標準化されている。なお、価格効果の閾値をクリアに現すために、価格が下がると販売個数が横ばいか上昇するように処理を行っている。

適正価格を見誤ると大きな損失が生まれる

 次は、加工食品Aの値上げが競合の加工食品Bとの関係にどれだけのインパクトがあったかを見てみよう。競合の価格は、価格設定において重要であり、値上げによって自社商品と競合商品との価格差が広がれば、生活者は競合商品にスイッチする可能性が高まる。自社製品の販売量が減少し、在庫回転率が悪くなれば、陳列棚を競合商品に差し替えられてしまうこともある。

 図3に加工食品Aと競合の加工食品Bとの価格差と2商品間のシェアのグラフを示した。X軸は2商品の価格差(加工食品Aの価格-加工食品Bの価格)を表している。棒グラフは図2同様に、販売価格日数構成比(%)を表し、棒グラフの分布を見ると、加工食品Aのほうが全体的には高い価格で販売されているが、最も設定頻度の高い価格差は0~4円であり、値上げ前はほぼ同価格帯で販売されることが多かったとわかる。

図3 加工食品AとBの価格差と2商品間シェア
図3 加工食品AとBの価格差と2商品間シェア

 折れ線グラフは、加工食品Aの個数シェア(%)を表している。加工食品Aと加工食品Bの価格差が0~4円のとき、加工食品Aの個数シェアは83%であった。値上げ後、加工食品Aと加工食品Bの価格差は平均30~34円に広がることが想定され、そのときの加工食品Aの個数シェアは67%であり、約16%のシェアを競合の加工食品Bに奪われることになる。

 この結果からも、加工食品Aの30円の値上げは、販売量の縮小が示唆されている。また、加工食品Aと加工食品Bの価格差が20円未満であれば、個数シェアはあまり減少しないが、価格差が20円以上開いたあたりから個数シェアが大幅に減少することが示されている。この結果からも販売量をなるべく落とさないためには、加工食品Aの値上げは10円が適正だった可能性が示された。

 実は加工食品Aが値上げした翌月に競合の加工食品Bも値上げを実施しているのだが、図1の通り加工食品Aのシェアがすぐに元の水準に戻ることはなかった。瞬間風速的にでも一定の価格差がついてしまえば、シェアを失い、失ったシェアを取り戻すことは容易ではないと言えるだろう。

 結果として、約30円の値上げ戦略は、生活者の価格受容性、競合との価格差分布からもシェアを大きく落とすリスクがあったことがデータから予見されていた。また今回の場合、10円の値上げであれば、生活者が受け入れる価格帯であり、かつ競合との価格差も広がり過ぎず、シェアを保ちつつ利益を確保できた可能性があった。

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適正価格を探り、生活者・企業の最適を目指す

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この記事の著者

伊藤 俊貴(イトウ トシキ)

株式会社インテージ事業開発本部DX部

2020年、インテージに入社。流通業界や通信業界を中心にデータ解析業務に従事。 データ分析を通じて、生活者の実態を理解し、クライアントの意思決定をサポートしている。趣味はサッカー観戦。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2023/11/15 11:21 https://markezine.jp/article/detail/44082

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