米国で小売企業の9割近くが参入しているリテールメディア
近年、小売企業が運営する広告媒体「リテールメディア」に世界的な注目が集まっており、予算投下も活発に行われている。小売企業のリテールメディア構築を支援するアドインテの稲森学氏は、海外の動向を次のように解説した。
「日本でリテールメディアと聞くと、店舗に設置されたサイネージや、アプリの中の広告をイメージする方がまだ多いと思います。しかし、海外のリテールメディア事情は大きく異なります。米国では、2016年ごろからリテールメディアに注目が集まり始め、ECではAmazon、リアル店舗ではWalmartやクローガーを筆頭に、様々な小売企業が広告事業に参入しています。今では、米国の小売企業の9割近くが広告事業を始めている状況です」(稲森氏)
Walmartが運営するリテールメディア「Walmart Connect」では、メーカーが自ら管理画面にログインし、どのようなユーザーに広告配信するか設定することが可能だ。検索広告、ディスプレイ広告、店内広告の配信に際して、メーカーがユーザーに合わせた広告媒体・表示デバイスを一括選定し、配信を行う。
リテールメディアが注目される理由として、稲森氏はテレビ(番組)離れ、3rd Party Cookieの利用制限、店頭のデジタル化の三つを挙げた。特に2024年に開始する3rd Party Cookieの利用規制は大きいという。
実際、米国におけるデジタル広告収益の伸び率を見ると、広告主が1st Party Dataの活用へと予算をシフトしていることがわかる。中でも、先述のWalmartは42%の広告収益増で、最大の伸び率を示している。
日本におけるリテールメディア参入の三つの障壁
それでは、日本でのリテールメディアの状況は一体どうなっているのだろうか。セブン-イレブン・ジャパンの杉浦克樹氏は、市場自体がまだ黎明(れいめい)期で多くの課題を抱えていると説明した。
杉浦氏は解決すべき課題を三つ挙げる。一つ目が、各社のサービス設計の違いだ。セブン-イレブンでは「セブン-イレブンアプリ」を通じて広告面を作り、1to1のコミュニケーションを図ることに注力している。しかし、サイネージ広告、棚連動広告、データ活用など、リテールメディアビジネスの注力ポイントは小売各社によって異なる。各社の強みを活かしたサービス設計を行うため、リテールメディア活用の効果を測るメジャメントが定まらず、広告主が媒体を選びにくくなっているという。
二つ目が、コミュニケーションの難しさだ。普段の小売企業とメーカー間の取引では、小売企業が商品を発注する側、つまりクライアントになる。しかし、リテールメディアに広告を出稿してもらう場合、メーカーがクライアントになるため立場が逆になる。この複雑な関係性においてのコミュニケーションが課題として挙がる。
そして、三つ目が人材の確保だ。マス広告やデジタル広告とは違い、リテールメディアは小売を本業とする人たちによって市場がつくられる。そのため、メディアとしての市況観や事業推進の経験など、広告に関する知見を持ってメディア運営を担える人材がいないことが課題になっているという。