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第106号(2024年10月号)
特集「令和時代のシニアマーケティング」

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MarkeZine Day 2023 Retail(AD)

リテールメディアの「可能性」と「課題点」 セブン-イレブン・ジャパンの事例から紐解く

 迫りくる3rd Party Cookieの利用規制に向け、急速に関心を集めているのが「リテールメディア」だ。米国では約9割の小売企業がこの事業に参入しているという。2023年11月に実施されたMarkeZine Day 2023 Retailでは、セブン-イレブン・ジャパンのマーケティング本部 リテールメディア推進部で総括マネジャーを務める杉浦克樹氏と、アドインテの稲森学氏が登壇。日本市場ではまだまだ発展途中であるリテールメディアの強みと課題点、未来について議論した。

米国で小売企業の9割近くが参入しているリテールメディア

 近年、小売企業が運営する広告媒体「リテールメディア」に世界的な注目が集まっており、予算投下も活発に行われている。小売企業のリテールメディア構築を支援するアドインテの稲森学氏は、海外の動向を次のように解説した。

アドインテ 取締役副社長 兼 COO 稲森 学氏

 「日本でリテールメディアと聞くと、店舗に設置されたサイネージや、アプリの中の広告をイメージする方がまだ多いと思います。しかし、海外のリテールメディア事情は大きく異なります。米国では、2016年ごろからリテールメディアに注目が集まり始め、ECではAmazon、リアル店舗ではWalmartやクローガーを筆頭に、様々な小売企業が広告事業に参入しています。今では、米国の小売企業の9割近くが広告事業を始めている状況です」(稲森氏)

米国でリテールメディアに参入した主要企業(出典:Insider Intelligence「Why retail media will be the third and biggest wave of digital advertising」)

 Walmartが運営するリテールメディア「Walmart Connect」では、メーカーが自ら管理画面にログインし、どのようなユーザーに広告配信するか設定することが可能だ。検索広告、ディスプレイ広告、店内広告の配信に際して、メーカーがユーザーに合わせた広告媒体・表示デバイスを一括選定し、配信を行う。

 リテールメディアが注目される理由として、稲森氏はテレビ(番組)離れ、3rd Party Cookieの利用制限、店頭のデジタル化の三つを挙げた。特に2024年に開始する3rd Party Cookieの利用規制は大きいという。

 実際、米国におけるデジタル広告収益の伸び率を見ると、広告主が1st Party Dataの活用へと予算をシフトしていることがわかる。中でも、先述のWalmartは42%の広告収益増で、最大の伸び率を示している。

米国におけるデジタル広告収益の伸び率(出典:Insider Intelligence「How Amazon will transform the advertising industry in 2023 and other highly specific retail predictions」)

日本におけるリテールメディア参入の三つの障壁

 それでは、日本でのリテールメディアの状況は一体どうなっているのだろうか。セブン-イレブン・ジャパンの杉浦克樹氏は、市場自体がまだ黎明(れいめい)期で多くの課題を抱えていると説明した。

セブン-イレブン・ジャパン マーケティング本部 リテールメディア推進部 総括マネジャー 杉浦 克樹氏

 杉浦氏は解決すべき課題を三つ挙げる。一つ目が、各社のサービス設計の違いだ。セブン-イレブンでは「セブン-イレブンアプリ」を通じて広告面を作り、1to1のコミュニケーションを図ることに注力している。しかし、サイネージ広告、棚連動広告、データ活用など、リテールメディアビジネスの注力ポイントは小売各社によって異なる。各社の強みを活かしたサービス設計を行うため、リテールメディア活用の効果を測るメジャメントが定まらず、広告主が媒体を選びにくくなっているという。

 二つ目が、コミュニケーションの難しさだ。普段の小売企業とメーカー間の取引では、小売企業が商品を発注する側、つまりクライアントになる。しかし、リテールメディアに広告を出稿してもらう場合、メーカーがクライアントになるため立場が逆になる。この複雑な関係性においてのコミュニケーションが課題として挙がる。

 そして、三つ目が人材の確保だ。マス広告やデジタル広告とは違い、リテールメディアは小売を本業とする人たちによって市場がつくられる。そのため、メディアとしての市況観や事業推進の経験など、広告に関する知見を持ってメディア運営を担える人材がいないことが課題になっているという。

リテールメディアへの出稿費用をどこから捻出するのかが問題

 稲森氏は「リテールメディアが広告なのか販促なのか?」という議論に決着が着いておらず、どの部門から予算を捻出すれば良いかわからず困っているメーカーも少なくないと指摘。それに対して、杉浦氏は次のように意見を述べた。

 「我々がリテールメディアを始めた頃は、メーカーさんのマーケティング部から『広告費』として費用をいただきたいと考えていました。しかし、小売一社のメディアだけに広告を出稿しても、普段からその小売企業の店舗を利用している人以外にアプローチすることは難しいでしょう。つまり、広告を出す媒体としては、インパクトが弱く見えてしまいます。この事業において最も大事なことは、『リテールメディア』という言葉をバズワードで終わらせないことです。当然、自社のオウンドメディアを大切にしていきたい気持ちはあります。しかし、リテールメディアを最短で定着させるには、業界の垣根を越えた企業間でのデータ連携が必要かもしれません」(杉浦氏)

 リテールメディアを推進するための社内体制の重要性についても杉浦氏は言及した。セブン-イレブン・ジャパンでは、「マーケティング本部」の下に「リテールメディア推進部」を配置している。マーケティング本部と同じく「商品戦略本部」に属している「商品本部」は、売れる商品を良い条件で仕入れるためにメーカーと相対するバイヤーのポジションだ。

セブン-イレブン・ジャパンの組織体制

 リテールメディア推進部が商品本部と大きく異なるスタンスでメーカーと仕事をしてしまった場合、メーカーがセブン-イレブン・ジャパン社内の連携に不信感と不安を抱くことになる。だからこそ、社内連携が非常に重要なのだという。

 その点、商品戦略本部の下にリテールメディア推進部とプロモーション部のほか、アプリを運営するチームや商品部が配置された現在の体制は「意識して連携を取ることさえできれば大きなメリットになり得る」と杉浦氏は説明した。

 「同じ商品戦略本部に所属しているからこそ、商品本部に対してリテールメディアの進捗を共有したり、逆に他部門にリテールメディア推進部では取引のないメーカーを紹介いただいたりできます。このような紹介は、社内で情報共有ができていることのアピールにもつながるので、メーカーの皆様にやりやすさや安心感を抱いてもらえます」(杉浦氏)

リテールメディアが小売とメーカーのWin-Winの礎に

 多くの広告主が気にするであろう、「リテールメディアの活用によるメーカー側のメリット」について杉浦氏はどのように考えているのだろうか。

 「特に当社のようなアプリを通じた広告は、販促と連動しているため最終的な購買につながりやすいという特徴があります。商品が売れるというのは、当社の商品部にとってもメーカーにとってもうれしいことです。リテールメディアは小売企業とメーカーがWin-Winになるための礎だと考えています。現在は、事例を積み重ねていくことで、リテールメディアの活用が購買につながりやすいという事実を少しずつご理解いただいている最中です」(杉浦氏)

 従来のデジタル広告では、媒体側やプラットフォームが保有しているデータを基にセグメントを設定する必要があり、広告を配信した後に、リアル店舗で購買につながったかの計測は不可能だったという。しかし、リテールメディアでは、小売企業が保有する購買データや会員データなど精緻なデータを活用してターゲティングと広告配信ができ、その後の購買行動変化まで分析することが可能になる。この点を広告主側から見たリテールメディアの良さだと稲森氏は述べた。

広告と販促を連動させ購買までつなげる

 杉浦氏は、リテールメディア事業を進める際には、小売企業が抱えている課題が各社で違うと把握することが必要だと説明。その上で自社の強みや方向性、足りない要素を明確にし、自社に足りない部分を補ってくれるパートナーを選ぶことが重要だと語った。

 セブン-イレブン・ジャパンが目指す今後の展望について、杉浦氏は次のように述べる。

 「セブン-イレブンアプリの会員数は2,200万人を超えました。当社ではアプリにバナー広告を表示したり、バナーとクーポン販促を連動させたり、アンケート機能をつけたりしながら、メーカー側に結果をフィードバックできるレポーティングも行っています。我々はリテールメディアビジネスにおいて、広告を情報に変え、販促との連動によって顧客体験価値を高め、最終購買につなげることを目指しています。自社グループのデータを活用しながら、フルファネルでビジネスを提供できるサイクルの構築を目指して、皆様との連携を深めていきたいです」(杉浦氏)

 稲森氏もまた、リテールメディアの構築を支援する立場から次のように述べて本セッションを締めくくった。

 「リテールメディアでは『購買ポイント』にフォーカスした施策が多くなりがちです。我々としては、ブランド認知や興味関心の喚起といったカスタマージャーニーを捉えた、フルファネルでの施策が可能なリテールメディアの構築を様々な企業の皆様と一緒に考えていきたいです」(稲森氏)

【クリックすると拡大します】

Q&A

 時間の都合でセッション中に回答できなかった質問が二点あったため、本記事で回答してもらった。

Q1:当初狙っていた効果以外で、(直接・間接を問わず)想定外のメリットはありましたか?

A:想定以上に反響をいただき、業態問わず様々な企業と関わらせていただく機会が増えたことがメリットとして挙げられます。また、社内でもこの新規事業に挑戦したいと積極的に手を挙げてくれる社員が多く、仲間が大幅に増加したことも社内の活性化という点で良い面だったと感じています。(杉浦氏)

Q2:スポンサーであるメーカーとメディアであるリテーラーが直接折衝するのでしょうか? その場合、旧来の広告代理店の立ち位置はどう変わっていくと思われますか?

A:特に店舗で取り扱いのある商品の広告を配信する場合は、多くの直接折衝が発生しています。常にお客様と向き合っている小売企業だからこそできるメーカー様への提案はたくさんあると思っています。一方で、我々としては、広告代理店の立ち位置を述べる立場にはないですが、代理店の方々がお持ちのアイデアもたくさんあるので、そこは協業していければと考えています。(杉浦氏)

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この記事の著者

三ツ石 健太郎(ミツイシ ケンタロウ)

早稲田大学政治経済学部を2000年に卒業。印刷会社の営業、世界一周の放浪、編集プロダクション勤務などを経て、2015年よりフリーランスのライターに。マーケティング・広告・宣伝・販促の専門誌を中心に数多くの執筆をおこなう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社アドインテ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/01/26 11:30 https://markezine.jp/article/detail/44256