可読性と判別性が高いフォントほど文字が見やすくなる
大村:IDフォントを開発する際には、高齢者や視覚障がい者のみなさんと様々なテストをされたかと思います。改めて実験の内容や結果について教えてください。

津田:過去に九州大学と一緒にUDフォントの研究を行った際、文字としての機能を最大限に発揮するために必要な要素を、可読性、視認性、判別性、美観性の4つの性能に整理しました。
今回はまず、これらの性能についてテストを行いました。判別性の場合、たとえば「U」と「V」といった形が似た文字を見せて被験者に記憶してもらい、その後に再度文字を見せてどれがどれかを判別させる実験です。判別までの時間が短いと、判別性が高いとみなされます。文字やフォントを変えつつ何パターンか行い、一番成績が良かったのかはどれか分析して、組み合わせを検討しました。
大村: IDフォントにおける4つの性能のバランスはどのように考えられているのでしょうか?
津田:いくつか考え方があります。たとえば視認性は、文字のサイズが大きければ大きいほど良い結果が出ます。しかし、大きくしすぎると文字と文字の隙間が狭くなり、読みやすさは落ちてしまいます。文字単体を目立たせるより、文章を読ませるニーズのほうが高いので、当社では視認性はあまり重視しない方針をとっています。
また、美観性と可読性の結果は非常に似通ったものになることがわかりました。そこで、美観性を個別に調べることはやめ、可読性と判別性を重視しています。
多様な特性に合わせることの難しさ、歯がゆさ
大村:高齢者向けと視覚障がい者向けがありますが、それぞれ見え方は変わってくるのでしょうか?

津田:高齢者、視覚障がい者(弱視)で評価結果の違いが少しありました。また、一口に視覚障がいといってもいろいろな種類があるので人によって見え方が違っています。
大村:そうなると、視覚障がい者の方全員に合わせたフォントは難しいですよね。その最大公約数を探っていくことになるのでしょうか。
津田:そうですね。ただ、それだと結局はUDフォントと同じことが発生するので、開発者として歯がゆい部分ではあります。しかし、何もやらないよりは、何かをやったほうがいいという思いで今回はこの形になりました。一方で、視覚障がい者からの評価はUDよりもIDのほうが高いので、そこは安心しました。
