売りたい、作りたい その先の「新しい課題」とは
──今回は、博報堂プロダクツ、パロニム、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(以下、DAC)の3社から、4名にお集まりいただきました。EC事業の業務設計や開発、新時代の動画コマース体験提供、自社ECの広告運用と、それぞれ異なる視点から事業者をサポートしていますが、皆さんから見て日本のEC市場はこの数年でどのように変化していると思われますか?
岡田(博報堂プロダクツ) 私は普段、カスタマーリレーション事業本部コマースDX部のコンサルチームという立場から日々クライアントのお悩みを聞いていますが、その中で感じるのは、単純に「売りたい」「ECサイトを作りたい」ではなく、商品を売った「その先」へと課題が移っていることです。
また、オンライン上の情報量が増え、あらゆる場所に分散しているため、お客様視点でいえば「どこを見れば良いのか、何をすればいいのかわからない」と混乱している印象を受けます。購入検討や決断に必要な情報を適切に提供するといった仕組み作りも、必要ではないかと感じています。
杉山(博報堂プロダクツ) 私が所属するコマースDX部にも、「ファン化やコミュニティ化に向けた体験提供の場を作りたい」といった相談は増えていますね。
谷井(パロニム) 従来のEC上のコミュニケーションは、事業者からお客様に向けて一方向に情報を届けるのが主でしたが、手段が増えたことで「双方向性をもたせたい」と意識が変化しているように感じます。お客様との距離を縮める手段として、ショート動画やライブコマースに目を向ける事業者が増えています。
根崎(DAC) EC市場の競争力が高まる中、広告活用をご提案する際に、お客様をサイトに集めた後の「購入率」にまでよりシビアに目を向けるクライアントは増えていますね。こうした数字を高めるには、広告クリエイティブを改善するだけでなく、遷移先のECサイト上において動画などを使った接客体験といった「商品理解を深めるコンテンツ」を拡充する重要性を感じています。DACでは2023年からECマーケティング本部を設立し、博報堂DYグループ各社と連携してコンサル領域を広げています。
杉山(博報堂プロダクツ) このように「『売る』を実現した次のステップ」に進む事業者がいる一方で、当社には地方や中小事業者のEC化の遅れに目を向け、「モールのようなプラットフォームを作り、各社の支援をしたい」といった構想段階からの相談も増えています。
──これまで様々なクライアントから寄せられた、ECに関連する相談に乗ってきたそうですが、クライアントによって相談の粒度は様々かと思います。課題解決に向けた提案をする際に心がけていることがあれば、教えてください。
岡田(博報堂プロダクツ) お客様に選ばれる上で重要なのは、店舗でもECサイトでも「そこが『買いたい場所』になっているかどうか」です。「ECサイトでは特別なことをしなければならない」といったことはまったくなく、コミュニケーションで人の心を動かす際に必要な要素はどのチャネルでも変わりません。
ただし、ECサイトには「データをリアルタイムで取得できる」という強みが存在します。他チャネルよりも精度の高いデータをどう生かすかは、きちんと向き合って考えるべき事項です。その重要さを伝えるようには意識しています。
杉山(博報堂プロダクツ) 私は「事業フェーズによって課題は変わるもの」と認識し、クライアントの現状に合った対応やアドバイスをするように心がけています。
特に、新規でEC事業を立ち上げるクライアントの場合、相談をいただいた時点ではどんなECサイトを作りたいか具体的なイメージが湧かず、漠然としたオーダーのまま全体構想を進めるケースも多いです。こうした案件の場合は必要要件を言語化する中でEC市場への理解が深まり、「もっとこうしたい」といった意見が出るケースも少なくありません。そのため、あらかじめ拡張性のある提案を行い、変化にも対応できるようにしています。
いずれにせよ、最も大切なのは「クライアントがどう売りたいと考えているか」を理解し、それに合ったアウトプットを提案することです。EC担当者の習熟度によっては、特商法など法律関係の決まりごとや事業を円滑に進める座組の知見がないケースもあるため、理解できていることとできていないことを明らかにした上で、身につけるべき要素をレクチャーしながら進めています。