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田中洋が紐解く、ビジネス成功のキーファクター

内田和成×田中洋の兄弟弟子対談!マーケ本大賞を受賞の『イノベーションの競争戦略』より

社会構造、消費者心理の変化を捉えた「メルカリ」の例

田中:本の中で先生は、「環境要因の変化を捉えないとイノベーションは起こせない」と解説されています。これについても教えてください。

内田:イノベーションというと、みなさん「技術革新」と訳しますよね。「技術革新=イノベーション」と言われるから、途端に「技術が新しくなければイノベーションではない」と誤解してしまうわけです。実際には、技術はそれほど新しくないものが世の中を大きく変えたケースはたくさんあります。

 身近な例を挙げると、メルカリもそうです。今では多くの方が当たり前に使われていますが、売りたいものの写真とその商品説明、価格を入力してアップするアプリの機能や決済機能などの技術自体は、それほど新しいものではありません。いまの大学生なら、数日でできてしまうようなプログラムだと思います。

 イノベーションを引き起こす源泉として、本書では「技術」「社会構造」「心理変化」を挙げ、これをイノベーションのトライアングルと言っています。メルカリの場合、「社会構造」と「心理変化」がイノベーションのドライバーとなったと考えられます。

 まず社会構造については、背景として、日本は一人暮らし世帯が増えています。統計でも、全体で最も割合が大きいのは一人暮らし世帯となっており、次に多いのは2人暮らしの世帯です。要は、いま、日本の標準世帯人数はおよそ1人か2人であり、4人で住んでいる世帯というのはむしろ異常値なんですね。

田中:たしかに、世帯構成はこの30年間くらいで大きく変化してきました。東京都などは世帯構成人数が1.92人で、2人を下回っているほどです(令和2年国勢調査より)。単独世帯や高齢者世帯が増えたことが大きいと思いますが。

内田:「家族=お父さん・お母さん・子ども2人」を標準世帯と呼んでいたこともありましたよね。そんな昔からの感覚に惑わされてマーケティングしていると大変なことになります。

 メルカリに話を戻すと、一人暮らし世帯は住居スペースに余裕があるわけではないので、モノをたくさん買って所有することが難しいですし、そもそも所得が上がったからと言って大きなモノを買うわけでもありません。なにより、今の若年層はライフステージに応じて、あるいはライフスタイルに応じて暮らしを考えるので、固定的にモノを持つことは逆にネガティブになったりします。だから、状況に応じてモノを入れ替えられる、中古品売買のサービスを求めるのです。これが、社会構造から見たメルカリ普及の理由です。

 もう一つ、メルカリがイノベーションとなれた理由は心理的なものです。私はモノが増えるのが大好きで、物欲の塊のような人間なのですが、最近は「所有しなくても利用できればよい。すなわち新しくなくてもよい」という感覚を持つ方が増えているようです。中には環境への配慮から「新しくなくてもよい」から「新品でないほうがよい」と考える方もいるくらいで、消費者の意識がこの数年で変わってきたことが、メルカリの躍進をさらに後押ししたのだと思います。

 そう考えると、技術だけでなく、社会構造や心理変化もイノベーションに非常に大きな影響を与えると言えます。

田中:「所有しない消費」は、青山学院大学の久保田進彦先生等が言っている「リキッド消費」の流れのひとつですね。過去の所有を重視する「ソリッド消費」(固い消費)に対して「リキッド」つまり液体のように“たゆたう”消費の形態として解説されていました。

 まだまだ触りの部分ではあると思いますが、内田先生の「イノベーションの定義」のポイントは、お話しいただけたかと思います。後編では、「インベンションで人々の行動を変えるには?」「なぜ日本ではイノベーションが起きづらいのか?」といったお話をお聞かせいただこうと思います。

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この記事の著者

田中 洋(タナカ ヒロシ)

中央大学名誉教授。東京大学経済学部講師。京都大学博士(経済学)。マーケティング論専攻。電通で21年実務を経験したのち、法政大学経営学部教授、コロンビア大学客員研究員、中央大学大学院ビジネススクール教授などを経て現職。日本マーケティング学会会長、日本消費者行動研究学会会長を歴任。『ブランド戦略論』(2017年、有斐閣...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2024/01/23 09:30 https://markezine.jp/article/detail/44508

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