生活者に気持ちよくデータを提供してもらうには?
私はマクロミルで、会員基盤を持つクライアントのCRM/CX支援を行う事業を率いています。担当者の方とお話する中で、「自社の会員データが不足している」というお悩み相談をよくいただきます。
「会員データが不足しているのであれば、新たに取得すればいいのでは」という考え方もありますが、物事はそう簡単ではありません。この記事をご覧の方の中にも、会員から新たにデータ取得しようとしても同意を得られなかったり、せっかくコストをかけて獲得した既存会員が離脱したり、はたまた外部から批判されて炎上するのではないか……等、会員を含む生活者の反応を常に気にされている担当者の方も多いのではないでしょうか。
確かにプライバシーの問題はあいまいで、人によって異なった捉えられ方や反応をされたり、時代とともに変化したりするものなので、対応していくのはとても大変です。では、どうすればCRMをはじめとしたマーケティングに必要なデータを、大切な会員の気持ちを害さずに、できれば気持ちよく預けてもらえるのでしょうか。
そんな業務の中での疑問がきっかけとなり、今回の調査を実施しました。調査にあたっては、これまでの経験や先行調査より、生活者がパーソナルデータを提供するかどうかの判断を行う言語化されていない要素があるのではないかと考え、要素分解を試みました(※1)。
※1 既に世の中には、プライバシー影響評価(PIA)という手法もありますが、法令やガイドラインの基準をもとにしたリスク評価で、今の生活者のナマの反応が含まれていないため、それだけで企業が新しいデータ活用に踏み切るのは危険ではないかと感じています。
まず、生活者のパーソナルデータに関する考えは千差万別です。自身のデータをとても大切に考えている人、メリットがあればある程度提供してもいいと考える人、データを使ったマーケティングの仕組みをよくわかっている人など、生活者それぞれが自身の経験や知識に応じてパーソナルデータの扱いを判断しています。そうした生活者の傾向をなんらかの属性で表現できるのではないかと考えました。
次に、パーソナルデータを提供してもいいかという判断は、データを預ける相手(=企業や政府等)によってかなり変化します。Adobeの2022年の調査(※2)でも、デジタルエコノミーにおいては企業の信頼性が重要であり、その施策として消費者は企業の透明性やデータガバナンスを見ているとしています。データ提供先への信頼とその先に生まれる好意度は、データを預ける上で大きな要素になりそうです。
そして、実際に預けるデータの内容(例:種類や量、期間等)や利用目的(例:顧客分析、広告配信等)も、生活者がジャッジメントするにあたって大きな位置を占めていると言えるでしょう。EUの「一般データ保護規則(GDPR)」でも、まさにこのデータの種類×利用目的ごとに個別同意を取得することが義務付けられています。データを利用する目的が、生活者にとってもメリットや価値のあるもの(たとえば、難病を解決する創薬など)であれば、受容性は高まる可能があります。
最後にプライバシー保護の取り組みです。日立製作所と博報堂の2019年の調査(*3)では、生活者はパーソナルデータ活用への拒否権がないことに不安を感じること、いくつかのプライバシー保護策の徹底が不安を軽減することがわかっています。また、インターネット広告推進協議会(JIAA)の2022年の調査(※4)では、ユーザーが情報の取り扱いに関与できることが、広告でのデータ利活用に対する許容を引き出すことも明らかになっています。
こうした先行調査などを踏まえて、「パーソナルデータ提供における生活者受容性の方程式」案を独自に作成しました。生活者受容性(Customer Acceptance Rate)を略して、「CAR」と呼ぶことにします。
まだ見えていない要素もあるかもしれませんが、ひとまずこの方程式に沿って調査を実施してみました。(信頼度・好意度については、本調査では割愛しています。理由は後述。)
※2 Adobe「Adobe Trust Report 2022」https://business.adobe.com/jp/resources/reports/adobe-trust-report.html
※3 博報堂「第四回 ビッグデータで取り扱う生活者情報に関する意識調査」https://www.hakuhodo.co.jp/news/newsrelease/58119/
※4 JIAA「2021年インターネット広告に関するユーザー意識調査「定量調査」の結果と課題への取り組み」https://www.jiaa.org/news/release/20221117_user_chosa/
生活者の何が違いを生むのか?
まずは、生活者の違いについて、マクロミルモニタが登録している最新の基本属性に従って、パーソナルデータを提供したことがある人とそうでない人の違いを分析してみました。
すると、データ提供経験には、男女間で明確に差異があることがわかりました。特に、「身長・体重」や「所得・年収」、「金融資産額と内訳」、「アンケート結果」では、女性のほうが約10ポイント低くなっています【図1】。
その他の各パーソナルデータの提供意向でも、女性の警戒心が強いことがわかりました。それぞれどの程度提供してもよいと思うか5段階で尋ね、「提供したくない」「あまり提供したくない」と回答した人の合計割合を比較したところ、特に「メールアドレス」や「電話番号」などの識別子や、「身長・体重」や「生体情報」、「位置情報」といった本人に到達する可能性のある情報は提供したくない人が多いことが見て取れます。
一方で「購買履歴」や「Web閲覧履歴」、「検索履歴」等の行動データや、「アンケート結果」や「インタビュー結果」といった意識データにおいては、男女間でそれほど差は見られませんでした【図2】。
年代別に比較すると、多くのデータで年代が上がるほど「提供したくない」という人が多いことがわかりました【図3】。他方で、収入等による違いは見られませんでした(ここでは図を割愛します)。