プライバシー保護への配慮や施策による違いは?
先述した通り、どんな目的であろうとデータを提供したくない層が4割程度存在している中、生活者の許容を引き出す上ではプライバシーの保護施策が非常に重要になってくるはずです。プライバシー保護への配慮や施策について尋ねた結果を見ていくと、認知率の課題が浮かび上がってきました【図7】。

認知されているものの上位には、「サイトでの説明(利用規約、プライバシーポリシー等)」33.5%、続いて「アプリでのポップアップでの説明、同意取得」が22.4%、「サイトでのバナーでの説明」が19.3%と、生活者が直接目にするものが並んでいます。しかし、「サイトでの説明(利用規約、プライバシーポリシー等)」は、データを提供される企業側にとって認知率100%であって欲しい施策のため、上位と言えどけして高いとは言えません。
今回、アンケートの回答画面上に画像やイラスト等を用いなかったため、施策の名称を知らない人や内容をイメージできなかった人の分はスコアが下がってしまいますが、それにしても、「オプトアウト機能」は7.1%と低い結果になりました。
データを提供される側の「これは知っているだろう」という常識が、生活者にとってもそうとは限らないということです。生活者が自身の意思でデータ利用を回避できる機会にも関わらず、長文なプライバシーポリシーの奥底に設置されていることが多い故に、目にされない=活用されていないのかもしれません。
また、データ漏洩や個人再特定(それによるプライバシー毀損)の防止のための「プライバシーテック(秘密計算等)」や「クリーンルーム」といったデータガバナンス施策の認知も低い結果となりました。生活者が直接見ることはできないシステム上の取り組みなのでしょうがないとはいえ、これらの技術が広く市場で採用されていくためには、生活者にもより認知されることが重要ではないでしょうか。採用していることが企業等の評価にもつながるようなインセンティブ設計も必要になってくるでしょう。
プライバシー保護施策によって、生活者のパーソナルデータ提供につながった経験については、現段階では施策の認知率に比例する形で、データ提供に大きく寄与しているとは言えなさそうです【図8】。

プライバシー保護施策がパーソナルデータの提供につながったことがない人が4割程度いる中で、もし(今後)プライバシー保護施策が行われていた場合に、どの程度データを提供してもよいと思うか尋ねました。
その結果、「サイトでの説明」に続いて「プライバシーテック(秘密計算等)」や「プライバシーセンター」、「アプリでのポップアップ」、「クリーンルーム」、「CMP」といった施策に対して20%以上が提供してもよいというポジティブな反応を示しました。このデータが示すように態度変容は確実に起こっています。「効果がない……」と嘆かずに、自社サイトなどの透明性および制御性の向上に努めることが、結果に結びつくのではないかと思います【図9】。

調査結果のサマリー
今回の生活者調査を通じて得られた気づきをまとめました。
- データ提供を控える傾向が高い女性や60代など上の年代の受容性を高めることが重要
- 生活者はどのデータも活用はされたくないが、提供先での活用方法および生活者側のメリット(ユーザー価値)が想像できそうなデータは、許容される余地がある
- どんな活用目的も望まない人が4割ほどいるので、そうした生活者の存在を織り込んだデータ利活用の設計を行う必要がある
- 生活者にメリットがある(ユーザー価値の高い)データの活用目的は受容性が高く、データを提供される側は利用目的がいかにユーザーメリットにつながるかを説明するかがポイントに
- プライバシー保護施策の認知には課題あり。業界として各施策に対する啓蒙活動を強める必要がある
- プライバシー保護施策の認知は低いが、生活者の直接目に触れない施策も含め、2割強が提供してもよいという意向につながっている
生活者受容性(CAR)の活かし方
市場一般のベンチマークがわかったところで、企業や組織に属する方が気になるのは、自社でファーストパーティデータとして取得する際の生活者受容性(CAR)だと思います。
実験台として、マクロミルの名前で利用目的ごとの各データの提供意向を聞いてみたところ、マクロミルが顧客分析目的で「インタビュー結果」や「病歴・病状」、「所得・年収」、「金融資産額と内訳」等を利用する分には、わずかに市場一般よりも受容性が高い結果が出ました。【図10】

他にもマクロミルが「コンテンツ表示のパーソナライズ」目的で「金融資産額と内訳」や「Webサイトの閲覧履歴」、「インタビュー結果」、「検索履歴」を利用する分には、市場一般よりも受容性が高い結果が出ました。しかし、「ターゲティング広告の配信」や「ターゲティングメールの配信」と言った目的では、双方とも「金融資産額の内訳」のみベンチマークを上回っただけで、他はベンチマークを下回りました。このように、同じマクロミル相手でも利用目的が違えば、各データの受容性は異なることがわかります。
仮説になりますが、マクロミルのサービスとして臨床試験や購買履歴データ、アンケート、インタビュー等を行っていることが認知されているが故に、顧客分析もその文脈に沿った目的だとして理解、信頼いただけたのかもしれません。
逆に「所得・年収」や「金融資産と内訳」に対しては、市場一般よりも高い拒否意識が出ました。そういったデータを顧客分析のために利用することは、弊社のイメージに合っていない、あるいは生活者が期待していることではないようです。
新しいファーストパーティデータを取得したり、新しいデータ活用目的を公表したりする前に、こうした調査を通じて、生活者の受容性を評価・把握しておくことはとても有益な方法だと思います。どれくらいの顧客が同意してくれるのか、あらかじめ把握でき、不要な炎上も防ぐことができるでしょう。