広告システムから、生活者のインフラ構築へ
森田:World IDに関しては、ユニバーサルベーシックインカムの議論も面白いと思います。AIが労働を担うようになるなら、人間は自身の知見や情報を提供するだけで生活できる仕組みが必要です。世界には身分証明書を持たない人もいる中で、一人ひとりに平等にインセンティブを配るためにどうするか。簡単に匿名のまま人間であることを証明できるシステムとして、World IDが重要になっていくと思います。
私は、その第一歩が「ポイ活」だと考えています。日々の行動や情報提供によってポイントを付与するシステムを構築できれば、単なる広告システムを超えて、生活者のインフラを作ることができると思います。
有園:私と同じような考えを持つ方がいて、うれしいです。ご存知かもしれませんが、『ラディカル・マーケット』という本のなかで「Data Work」という概念が出てきます。「個人データ」を使ってAIやアルゴリズムが賢くなって生産性が上がる事実を「Data Work」と位置付けて、データを提供する個人に「配当金」などを出すという思想に発展しています。
この本の共著者の一人は、Microsoft Researchに所属するグレン・ワイルという経済学者です。実は3年半ほど前に彼にチャットをして、「Microsoft Rewardsという、Microsoft製品の利用に応じてユーザーにポイントを付与するプログラムはあなたの思想に近いのではないか?」と質問したのです。個人のデータは個人のものであり、ユーザー自身にデータの主権があるはずだ、と。
詳細は機密情報もあるため話せないのですが、「In the theory(理論的には)、○○○○であるが、by design(実際の設計では)、×××となっている」と返事をもらいました。この本の紹介文として、Microsoft CEO サティア・ナデラのコメントも載っており、「私はずっと、テクノロジーと市場の力を用いて平等な社会を実現する方法を探してきた。本書こそが、その方法を示している」と書かれています。
森田:まさに広告で使うデータの取得がどんどん難しくなっているので、これからは「データは個人のものである」という前提で進めていく必要があります。World IDは、複数登録による不正を省きながら、ポイントの配布の実現に活用できる可能性があります。
AIが判断する時代こそ「人間に届く広告」が重要に
有園:World IDを活用して、どのような広告システムの構築を目指しているのでしょうか。
森田:私たちが目指すのは、未来型の広告プラットフォームを構築することです。企業が確実に正しい情報を生活者一人ひとりに提供できるようにするには、「人間に届く広告」を配信する仕組みが欠かせません。
今後、AIエージェントが普及すると、企業のAIと個人のAIが直接交渉する時代になるといわれています。そうなると、自社の商品がAIエージェントに選ばれるようにするために、広告主が戦略を練ることになります。
その際、AIO(AI検索最適化)が重要になる一方で、「確実に人間に届く広告」を配信するシステムの価値が高まると考えています。なぜなら、AIが商品を選択するためには、人間による情報提供が必要だからです。また、AIは学習していない選択肢を勝手に排除してしまう可能性もあります。そのような商品を選択肢に入れてもらうためにも、確実に人間に届く広告手法が重要になるのです。
有園:AI同士の会話が成り立つ世界になっても、並行して人間に届けるための仕組みが必要だということですね。
