ECサイトは、ペイドメディア化するポテンシャルがある
これらの話があった中で、筆者にはとても気になる仮説が生まれてきた。自社ECサイトは収入を得るペイドメディアになりうるのではないか?ということだ。ファンケルは時代の流行では枯れない“エバーグリーン記事”を中心に月に10本以上掲載し1,800万のPVを誇っており、エキップは自社の美容部員の利用シーンがよく見られ売り上げに貢献している。ZENBもこれからであるがグルテンフリーのコンテンツを上げてゆくだろう。
実は筆者は2010年代にコカ・コーラパークというCRMサイトの運営をしており、運営費の補填のために外部に広告を販売していたことがある。年間数億円に上る収益を確保してサイト拡充の原資としていた。当時のそのサイトはCRMサイトであり、ECサイトではなかったのだが、オンライン販売や定期販売が進化している今、ECサイトにアクセスも注目(Eyeballs)も集まっていることを考えると、これは有望なペイドメディアと言えるのではないだろうか。
もちろん色々なハードルはあるものの、きちんと企業が監視しているサイトで、ホワイトリスト化をして運用すれば問題ないだろう。また出稿側も一般のサイトよりもブランドの毀損やアドフラウドが発生しにくく高い単価が期待できる。
たとえばZENBであればその世界観(グルテンフリーや素材を無駄にせず全部使う)にマッチしたブランドが出稿することにより、シナジーも生まれるし、ECサイトを買う目的だけでなく情報を得る目的を与えることができるのではないだろうか。そして滞在時間が延びると購入も増えるというリサーチもいくつか筆者は目にしており、売り上げにもプラスになるのではないだろうか。考えてみるだけでもワクワクするし、買い物効率を上げようとするショッピングのプラットフォーマーと違うコンセプトで顧客価値を提供できるのではないかと考える。
加速するリテールメディア、そのブレークスルーの鍵とは?
今回のad:tech tokyoでは、アーカイブ禁止セッション「リテールメディアの未来――小売4社が語る進化の可能性」があった。筆者にとって非常に示唆のあるセッションであった。
「小売4社が垣根を越えて集結し、リテールメディアの課題と可能性について語り合うセッションです。広告主から寄せられる課題やリアルな声を真摯に受け止め、小売側として今後の改善や方向性を語ります。お客様にとって本当に価値ある体験”を届けるために、市場が構築されていない今、競争ではなく共創を選ぶ。小売と広告主が“お客様に向かうパートナー”としてともに前進するためのヒントと気づきをお持ち帰りいただけます。」
モデレーターは筆者のかつての同僚のIBAカンパニー社長の射場瞬氏。パネリストはファミリーマートのリテールメディアを手掛けるデータ・ワン 代表取締役社長 CEO 国立冬樹氏、イオンリテール デジタル企画部 部長 田中香織氏、PPIH/pHmedia 取締役 CDO 小林真美氏、セブン‐イレブン・ジャパン 新規事業推進室 総括マネジャー 杉浦克樹氏の4名。競合である企業のキーパーソンたちが顔を揃えて話をしたのである。
内容は非公開なのでこの記事では触れないが、筆者が持った感触としてはリテールメディアというカテゴリーが米国でも成長しており、流れとして日本にも同じように上陸するであろうということである。リテールメディアは設置してある店舗とブランドがシェアする露出なので、OESPのSharedメディアである。店舗やECサイト等、今までメディアと認識されなかったものが台頭してきており、今後が大変楽しみである。
生成AIを事業に組み込み、意思決定の速度と質を上げるには?
一方で、生成AIの取り込みに関してad:tech tokyoでは、まだ“ツール導入”の段に留まっている印象が強かった。生成AIを生かすのに必要なのは、ツールとして活用するソフトウェアではなく、事業を一緒に動かすパートナーとしての位置づけだ。
具体的には、企画→制作→配信→計測→改善のループ全体に、ビジネス価値の再構築という観点でAIを組み込み、意思決定の速度と質を底上げすることが必要ではないだろうか。もちろん反復的作業的なタスクも大幅に減少し、そのリソースを他にも回せる。
こうしたグローバルで始まっているマインドセットを獲得するためには、私が関わっている日経BP「スタンフォード式 生成AI Bootcamp」のような“実装直結型”の学びも有効だと思う。是非ご検討ください。
