パートナー企業とともに生活者の価値観を可視化する
先述のように、積水ハウスはプラットフォームハウス構想を通じて住まい手の暮らしを生活ログとして観察し続けてきた。同社ではこの取り組みをさらに発展させるため、2023年9月に社会生活者の行動に精通する博報堂との共同プロジェクトを発表している。
「私たち積水ハウスはハウスメーカーとして住宅に関する専門知識を持っていますが、個々の社会生活や価値観に関しては詳細な知見を持ちにくい。そこで、社会生活者の動向を深く理解している博報堂と共同で、生活者のニーズや価値観をより深く探求したいと考えました。両社の強みを活かし、収集したビッグデータをAIで解析することで、新たな洞察を得られると考えています」(吉田氏)
これにより、家の内部だけでなく、外部の生活スタイルにも目を向けることで、人々の生活のより深い理解を追求しているという。
そもそも生活ログは、1秒単位や5秒単位、さらには操作単位など多様な単位で収集され、1日に膨大なデータとして蓄積される。同プロジェクトでは、AIがデータそのものの特徴から法則を見つけ出す「教師なし学習」によって生活ログを解析している。たとえば、ある夫婦の生活スタイルが、外出して仕事に行く場合、平日出社する場合、在宅勤務する場合などのどれに当てはまるのか、生活ログから分類することが可能である。
生活スタイルを分類できれば、生活ログの解釈をより精緻に行える。たとえば、「片方が平日出社」とわかった上で、間取りから判断された父親の部屋の照明が10時ごろに点灯すれば、その日は父親が在宅勤務であることが推測できる。
父親が在宅勤務とわかれば、部屋の照明のオンオフや鍵の施錠のタイミングなどから、その日の生活様式を想定できる。たとえば、朝8時半ごろに家族を見送った後、午前中にメールチェックなどの仕事を行い、その後リビングの照明が点灯すれば、家事やリビングでの食事が推測される。夕方に鍵が施錠されたら、保育園のお迎えを行っている可能性が考えられる。
これらの情報から、仕事と家事を効率的に切り替え、子どもの世話も積極的に行う父親の姿が浮かび上がる。ここまで見えれば、どのようなサポートやサービスが有効であるかを想像することは難しくない。
多様な業界の知見を集め「共創データベース」の構築を目指す
現在、積水ハウスのAIは、生活ログデータを教師なし学習で学んでいるが、今後はAI学習のために使用できる正解データを作成することを目指している。現在、約2,500の家庭にPLATFORM HOUSE touchを提供し、これらの家庭の生活を調査している。この調査結果を生活ログデータと照らし合わせれば、特定のパターンで何が行われていたかを示す正解データを得られる。
正解データに基づく解析が行えれば、生活者のニーズをより詳細に把握することが可能になる。さらに、正解データを小売事業者、家庭向けサービス事業者、ヘルスケア事業者など様々な業界の企業が持つ顧客データと連携させれば、各社の顧客理解の解像度が上がり、究極のパーソナライズサービスを実現できるだろう。積水ハウスは博報堂との共同プロジェクトにおいて、将来的には業種・事業領域を問わない複数社とデータを統合した「共創データベース」の構築を目指している。
最後に、吉田氏は「冒頭で述べたように、提供されたデータを提供者に還元するモデルが、すべての構想の基本です。その上で、積水ハウスという物理的な家にソフトウェアやサービスを組み合わせることにより、住む人々の無形資産を積み上げ、これが最終的に幸せへとつながると考えています」と述べ、構想の根底にある顧客第一の考え方を強調した。
