3万超のプロフェッショナル人材が集結、新生VMLが誕生
MarkeZine編集部:2024年1月にWunderman ThompsonとVML Y&Rが統合され、様々なケイパビリティや歴史を持つ企業が集結する、WPPグループ内でも非常に大きなチームとなりました。VMLとしてどのような意味があると考えていますか?
Mel:世界最大規模のクリエイティブ・カンパニーが誕生したことよりも、より広く深い専門性をもとにクライアントにサービスを提供できるようになったことが重要だと考えています。米国市場に強みを持つVML Y&Rと、東南アジアやヨーロッパに強いWunderman Thompsonが一緒になることで、様々な領域に深い専門性を持つ3万人以上のプロフェッショナルが世界64の市場でクライアントのビジネスに貢献できるようになりました。
日本をはじめとするアジア太平洋地域の企業に対しても、国内はもちろんグローバルを視野に入れた事業成長の支援が可能です。
MarkeZine編集部:従業員数、カバーする国々、そしてサービス内容の深さと広がりにおいて注目が集まる組織が誕生しましたが、組織間のリレーションシップや協力体制の構築はどのように進んでいるでしょうか?
Mel:実は、以前からWunderman ThompsonとVML Y&Rは一緒のチームを組んで活動することが多々ありました。実際、各社トップクライアントの8割以上を共有していました。今回の統合はクライアントの立場から見ても有意義な点が多々あるだろうと思っています。そうした下地があっての動きなので、お互いの社風を理解し、尊重し合う関係性も既にしっかり築けています。
VMLのケイパビリティ/日本の伸びしろは「CO(Commerce)」にある
MarkeZine編集部:VMLは、CX(Customer Experience)とBX(Brand Experience)の分野で強いケイパビリティを持つと聞いています。日本でも「CX=顧客体験」の重要性は認識されていますが、そもそも「BX」というワードはあまり聞きません。VMLは、BXおよびCXについてどのような考えを持っていますか?
Mel:ビジネスを成長させるためには、CXとBXに加え、「CO」が相互に繋がっている必要があると私たちは考えています。ブランドの基盤を構築しながら、顧客がブランドから得られる価値=CXを最大化する。それによって売上成長を実現するには、「CO」の領域が欠かせません。
おっしゃる通り、日本にはCXの概念は既にありますし、ブランドの重要性も皆さん十分に認識されていますが、私は「CO」の概念が薄いように思います。「CO」というと、日本ではオンラインショッピングと受け取られがちだと聞いていますが、我々が意味する「CO」は、オンラインに限定しません。実際の店舗やデジタル空間など、あらゆる場面での商品やサービスの購入を含みます。
ここにこそ、日本市場のさらなるポテンシャルがあると感じており、VMLとしては、日本市場にBX×CX×COの概念を浸透させていくことに大きな可能性を感じています。
MarkeZine編集部:各社のブランドがBX×CX×COという新たな概念のもとに受ける価値は、新生VMLが誕生したことで高まるのでしょうか?
Mel:大きく高まります。BXの領域に関しては、元々両社ともにブランドの立ち上げから育成・強化に至るまで深い知見を持っていました。VMLとなり、特に強化されるのはCX×COの領域です。
Wunderman Thompsonは、CO領域におけるプラットフォームの構築支援やCRM戦略など、テクノロジー活用やデータ分析を得意としてきた企業です。一方、VML Y&Rは、顧客側の視点から店舗内やイベントでのCXを高めることに強みを持ってきました。これらを掛け合わせることで、VMLはCO領域でより広く、より深いケイパビリティを持つことになります。BX×CX×COによるビジネスの成長を、世界規模で実現できる力が今の私たちにはあると自負しています。
「広告」だけで終わらない。人を動かし、ビジネスを成長させる戦略を
MarkeZine編集部:BX、CX、COに関してもう少し具体的に聞いてみたいと思います。VMLから受けられる支援内容を、日本の事業主はどのようにイメージすればよいですか?
Mel:ここまでお話ししてきたBX、CX、COの3つは、あくまでVMLがケイパビリティを持つ領域を整理したものです。ですから、クライアントが「BXを向上したいのだけれど」などと相談してくることは、おおよそないと思っています。
実際、グローバルでもクライアントの入り口は「このような目的でキャンペーンを行いたい」などというものです。これはきっと日本でも同様ですよね。ただ、入り口は同じでも、そこから多方面にわたる提案をすることができるという点でVMLは特異性を持っています。
たとえば、あるメーカー企業が「市場シェアの拡大」に課題を抱えていたとしましょう。その課題に対し考えられるアプローチは、様々あります。コマース領域の深い知見をフルに活用し、直接消費者に商品を届けるD2C戦略を描くかもしれませんし、中長期的に顧客との関係性を構築するCRM戦略や、ライフタイムバリューを高めるための施策を提案するかもしれません。あるいは、消費者に訴えかけるキャンペーンやイベントを設計したり、店頭のCXを高める企画をしたりするかもしれません。テクノロジーとデータ、クリエイティビティをもって実現できる様々な選択肢の中から、消費者のニーズに合っていて、かつクライアントの売上拡大に繋がるものを実行していくのがVMLです。
MarkeZine編集部:なるほど。「キャンペーンを行いたい」という相談の出口が、キャンペーン=広告だけでないのですね。日本でも面白いプロジェクトの例はありますか?
Mel:ユニークな施策が色々ありますよ。日本のチームが「バーチャル渋谷」などユニークな施策を多数行ってきたKDDIとの取り組みは、日本だけでなく、各国のプロフェッショナルが集結してつくられた素晴らしいプロジェクトです。
リアル・バーチャルでBX×CXを創造、KDDIを世界のブランドへ
VMLネットワークの一員として日本にサービスを提供するVML & Ogilvy Japan(VOJ)は、リアル、バーチャルでのBX/CXソリューションを深め、日本のブランドの成功を世界に広げている。その一例が、KDDIとのプロジェクトだ。
2020年、KDDI、渋谷区観光協会、一般社団法人渋谷未来デザインが中心となり、新しい時代にふさわしい事業、サービス、街の在り方、人との関わり方などを模索する参画企業50社と共に「渋谷5G エンターテイメントプロジェクト」が組成された。VOJは、このパートナー・エージェンシーの1社として参画している。
同プロジェクトにおける代表的な施策として「バーチャル渋谷」がある。コロナ禍にニューノーマル時代の街の新たな可能性を示し、大きな注目を集めてきた渋谷区配信プラットフォーム「バーチャル渋谷」は、延べ5万人が集結したオープニングイベントから始まり、2023年開催の「バーチャルハロウィーン2023」には延べ150万人以上が参加。社会的イベントと言える規模にまで拡大している。
また、VOJは、昨年度KDDIが発表した現実と仮想を軽やかに行き来する世代に寄り添い、誰もがクリエイターになりうる世界に向けたメタバース・Web3サービス「αU」のブランドフィルムを手掛けている。直近では、KDDIが初出展した世界最大のモバイル関連展示会「MWC Barcelona 2024」にて、ブースの企画・演出・エグゼキューションを担当。国境を超えたBX、CXの精鋭部隊がリードしている。
こうしたプロジェクトを経て、KDDIとWPPはWeb3事業における戦略的パートナーシップを締結。WPPの一員として、今後もVOJは人々の行動変容を促すクリエイティブとエグゼキューションの強みを活かし、単純なプロジェクトの運営~実施ではなく、end to endでブランドエクスペリエンス、カスタマーエクスペリエンスの設計をリードしていく。
世界各国のベストプラクティスを繋げ、進化させていく
MarkeZine編集部:日本の総合広告代理店も各社DX領域の支援に力を入れており、カバー領域を広げてきています。そうした中で、VMLが日本の事業主に提供できる独自の価値は何になるでしょうか?
Mel:最も大きいのは、グローバルネットワークを使って日本のクライアントの海外進出をサポートできる点だと思います。海外進出を視野に入れている企業にとっては、グローバルのネットワークを活かして、海外市場へのアプローチをスムーズに進めることができるでしょう。
実際、日本とマレーシアのチームが協業してクライアント支援をしているケースなど、グローバルネットワークを活用した実績は数多くあります。各国の最前線で活躍しているメンバーが、複数の国や領域にまたがる知見とクライアントを繋げるハブの役割を担っています。
MarkeZine編集部:VMLは日本市場をどのように見ていますか? 最後に日本市場での今後の展望についてお聞かせください。
Mel:日本には革新的で非常に優れたブランドが数多くありますよね。日本市場には非常に大きなポテンシャルを感じています。日本のブランドを広くグローバルに展開していけるなら、それは私たちにとって非常にやりがいのある仕事です。
日本チームには幅広く、深い知見を持った優秀な人材がそろっており、これまで数多くの実績を残しながらクライアントとの信頼関係を築いてきました。この基盤を活かしつつ、グローバルの知見を融合させていけば、クライアントのより大きな成長を支援していけると確信しています。
私自身、日本が大好きです。これからも一層、日本のクライアントに貢献していきたいと考えています。