インフルエンスが連鎖していく仕組みづくり
MZ:今回のプロジェクトは、特定の商品の認知やキャンペーンとは別の文脈です。このような際のコミュニケーションの作法・注意点についてどのようにお考えですか?
暮井:製薬会社から一般の人に対して、疾患のリスクを説明する際には、特定の疾患や症状が必ず発症・発現するとの誤解を招くような表現とならないように注意をする必要があります。ほとんど知られていない病気について啓発していくことは、多くの部門との横の連携、双方のリスペクトが重要だと感じました。
森:かなり打ち合わせを重ねました。どう伝えれば、傷つけたり誤解を与えたりすることなく受け入れていただけるか、徹底して意識しました。

常世田:今回のプロジェクトは、yamaさんをはじめとした多くのクリエイターに関わっていただきました。ただ「インフルエンサーにお任せした」のではなく、それぞれが影響力を持ち、文脈のある「個」としてプロジェクトに向き合ったことが、良い流れやアクションにつながったと考えます。こういう時代においてクリエイターさんとも引き続き関わっていくにあたり、非常に重要な学びになりました。
インフルエンサーはムーブメントをともに押し上げるブースター
MZ:インフルエンサーマーケティングは手法が注目されがちですが、双方の目的と連なる文脈を持って機能させていくことが必要なのですね。今後の展望についても教えてください。
暮井:多くの人に届ける方法の1つとして、インフルエンサーの方々の起用は有用だと考えます。今後挑戦したいのは、インフルエンサーの方が患者さんから直接話を聞いて展開が始まるプロジェクトです。インフルエンサーが自分で考えた難病の啓発活動を実施する事がインフルエンサー自身にどのような変化を及ぼすのかという点にも興味があります。
常世田:今回のプロジェクトでは楽曲が残ります。yamaさんはライブで歌い続けてくださるとも聞いていますし、そのことで本プロジェクトの価値が保たれていくと思います。インフルエンサーに頼りきりになるのではなく、波紋のようにインフルエンスが連鎖していく仕組みづくりをすることが、今後のインフルエンサーマーケティングをより意義深く、価値のある取り組みにするためのヒントになります。
今回のプロジェクトは、TikTok for Business Japan Awards 2024でダブルノミネートされました。発信者を増やすことで一方通行のコミュニケーションにならない工夫をされていたのがイノベーションポイントだったのではないかと考えます。

森:今回は「難病患者さんにはこう接しましょう」でなく「その人は何を望んでいるか」を想像するところから始めました。正解を打ち出すのではなく、考えに余白を持たせることを意識したのです。それが結果的にコメント欄で多くの意見を創出し、活発な議論を生みました。インフルエンサーは「こちらが伝えたいことをインフルエンスしてもらう存在」なのではなく「ムーブメントをともに押し上げてくれるブースター」なのだと思います。