なぜ「テコ入れ=ブランドローンチ」だったのか
「着物文化を後世に残すためには、着物産業を支える工場が守られなければなりません。そこで働く人々を、雇用の面でも収益の面でも支えるという意味です。工場が守られて初めて、技術を継承するための土壌が整います。工場を守るためには新たなブランドを立ち上げ、ビジネスパートナーとしてアプローチする道が最善だと考えたのです」(座波さん)
こうして誕生したブランドがKeniamarilia、通称「ケニマリ」である。

着物産業のテコ入れを考えるなら、既に流通している着物をより多くの人に買ってもらうなり、着物を着る機会をつくるなり、選択肢は様々あるはずだ。なぜ座波さんはブランドの設立が最善策だと考えたのだろうか。
「着物を普段着として成立させるためです。着物が生活の延長線上に戻ってこなければ、着物産業はこれ以上拡大しないどころか、維持すらも難しいと考えました。『一年に一回着るかな?』ではダメなんです。突飛なものは普段着になり得ません。皆が気負うことなく着物を着られるように、新しいコンセプトのブランドを立ち上げました」(座波さん)
新たなブランドをつくる。「言うは易く行うは難し」である。座波さんが最初に制作したのは、ケニマリの代表作とも言える着物地を利用したスカートだった。自身の手で7着ほど制作し、STORESで開設したネットショップで販売すると、スカートは瞬く間に売れた。
7着売れて感じたPMFの手応え
「最初の売上はご祝儀のようなものだと思いつつ、やはり舞い上がるほどうれしかったです。たった7着すら売れないのであれば、それは着物に罪があるのではなく、私の目指した方向性やプロダクトに問題があると言えます。でも、完売したんです。7名の購入者のうち3名は、私と面識のない方々でした。『私のやっていることは間違っていない』と確信しましたね」(座波さん)

ケニスカよりタイトなシルエットに仕上げた新型「シュッケニ」のコーディネート例(画像中央)
購入者からは「このような日常着をまさに探していた」という連絡がきた。スタートアップで言うところのPMF(プロダクトマーケットフィット)の瞬間である。その後も知らない人からの購入が増え続け、座波さんはさらなる自信を得たという。
需要が拡大するにつれ、ハンドメイドでの生産に限界を感じ始めた座波さんは、1回の販売数が30着を超えたタイミングで縫製工場に生産を委託した。SNS上で熱意を持って情報を発信し続けていたおかげで、彼女の活動をずっと見守っていた縫製工場の担当者から声がかかったのだ。
「工場に生産をお願いする上で、気を付けていることがあります。それは『相手に損をさせないこと』と『約束を守ること』です。何かあればすぐに話し合います。アパレル企業の生産管理部門に勤めた経験を踏まえ、無茶な仕事を一方的にお願いすることはありません。ただでさえ小ロットで変則的なお願いをしていますから、ケニマリの仕事を受けることで損を被るのは本末転倒ですよね。常に相手にリスペクトを持つこと。これは大前提です」(座波さん)