本記事は対談の後編です。前編をまだご覧になっていない方は、前編『その常識が事業成長を妨げている可能性も。盲目的マーケターが「ごっこ」を脱するために(田中洋×芹澤連)』からお読みください。
マーケティングに「たった1つの解」はない。
田中:ここまで、芹澤さんが『戦略ごっこ マーケティング以前の問題』を書かれた意図や、盲目的に信じていることを疑う重要性などをお話しいただいてきました。例として、「STPすら、実はワークしないことがある」というエビデンスも示していただきました。定石や常識を疑った先に、マーケターはどのような思考をすればよいでしょうか?
芹澤:実は、前編でのお話には続き(結論)があります。というのも、数学なら1つの解が求まりますが、マーケティングの場合は白黒つけられないことが多いですよね。「あるブランドがSTP通りに成長していないから、STPは役に立たない」というのもまた論理の飛躍ですし、マーケティングはそんなに単純ではありません。
STPに関する話で私が一番伝えたかったのは、「場合分け」「使い分け」がポイントになるということ。「ずっと使われてきた理論だから」「みんながそう言ってるから」と盲目的に信じてしまうことの危険性をお伝えしたかったのです。
使い分けの例、STPが有用な場合
田中:使い分け、場合分けの重要性については、『戦略ごっこ』でも繰り返し説かれていました。「使い分け」について、もう少しお話をお聞かせいただけますか?
芹澤:たとえば、企業・ブランドの成長フェーズによって、とるべき戦略は大きく変わってきます。各フェーズで「広告の効きやすさ・効きにくさ」も違ってきますし、価格弾力性なども変わってくるからです。
STP関連で言うと、ブランドのローンチ前後ではSTP視点も有用です。消費財などの普及は次のようなConcave型の曲線を描くのですが、関数の形状的に、ローンチ直後のスタートダッシュをしくじるとすぐに売上が伸びなくなります。ですから上市後しばらくは、とにもかくにも「買ってくれる人に買ってもらう」ことが先決です。
田中:スタートダッシュで、ある需要層をがっちりつかんでおく必要があるということですね。
芹澤:そうです。そうしたフェーズでは、ターゲットやオケージョンを絞り込み、ベネフィットを明確にして価値提案するというSTP的な観点も役立つわけです。というか、そうした視点がなければモノ・サービス自体、作れないでしょう。
しかし、その視点だけではすぐに飽和して売上は収穫逓減してしまう。なので、なるべく早い段階(Q2前後)で浸透率メインの戦略に切り替えて、ライトユーザーへ拡大していく必要があります。このことは前編でお話しした通りです。要するにSTPという“道具”自体がどうというより、ゴールに対する道具の“適性”が問題なのであり、その選択こそ真のイシューだということです。