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第106号(2024年10月号)
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顧客満足度2年連続No.1「スカイマーク」のCS・CX戦略 専門家と紐解くPDCAと現場巻き込みの鍵

人口減少にともなって新規獲得による事業成長が困難になり、他方では顧客ニーズが多様化、コモディティ化。以前に増してCXの改善が着目されるようになっている。そのような中で、JCSI顧客満足度ランキング(国内長距離交通部門)で2年連続No.1を獲得しているスカイマーク。今回はスカイマークのCS・CX担当者と、CX領域に詳しい研究者である法政大学名誉教授の小川氏、CXマネジメントを多数手がけているインテージ・田原氏に取材し、CX推進に必要な考え方、具体的なアクションを探った。

顧客満足度ランキング2年連続1位のスカイマークがCSマネジメントに取り組んだ理由

━━スカイマークでは、JCSI顧客満足度ランキング(国内長距離交通部門)で2年連続No.1を獲得するなど、CS(※1)のマネジメントに注力されている印象です。貴社が注力してきた背景をお教えください。

画像を説明するテキストなくても可
  • (写真左)スカイマーク株式会社 執行役員 DX本部長 中川 卓氏
    外資系コンサルティング会社を経て、以前から乗客として高頻度に利用していたスカイマークに入社。DX本部担当の執行役員として、DXをミッションとした取り組みを統括する
  • (写真中)スカイマーク株式会社 CS推進室 室長 戸田 健太郎氏
    大手航空会社にて約10年勤務した後、米国留学を経て米国の航空会社に入社。2011年にスカイマーク入社後、空港支店長を経てCS推進室長となる
  • (写真右)スカイマーク株式会社 CS推進室 副室長 井上 弥緑氏
    スカイマークの客室乗務員3期生として、就航1ヵ月後の1998年10月に入社。複数の部署を経て、現在はCS推進室で搭乗後アンケートの分析などを担当している

戸田:当社はフルサービスキャリアとLCCとの間にポジショニングしており、フルサービスキャリアに近いレベルのサービスを、身近な価格で提供しています。

 当初からCSに注力をしていたわけではありませんが、2015年の1月に経営が一度破綻し、その後“新生スカイマーク”として生まれ変わる際、まずは基本となる定時運航率の改善にフォーカスしました。

 そこから2年半ほどで、破綻前に下から2番目だった定時運航率が国内航空会社の中で1位になれました。この時、さらなる高みを目指すと同時に、より顧客満足度の向上に取り組み、運賃が安いだけのエアラインとの差別化を図るという方針を打ち出したのです。こうして、CSの向上に取り組み始めたのが2015年ですが、DX推進を担う中川もCSやその先にあるCX(※2)に重要性を見出していたことから、現在はCXへの進化に向けた社内基盤を確立するべく一緒に活動しています。

スカイマーク公式サイトより

中川:ビジネスの観点からも、ロイヤルティを高めてリピーターを増やすことが効率的であり、そのためには顧客体験価値を向上させる必要があります。しかし、現実的には時間やコストが限られている中で、カスタマージャーニーのすべての顧客接点で一気に価値を高めるのは難しいです。そこで、お客様の視点から見てより印象的な顧客体験を見極め、そこに優先的に注力することが、効率的にDXを推進する上でも重要だと考えました。

※1 CS:Customer Satisfaction/顧客満足
※2 CX:Customer Experience/顧客体験

結果よりもその過程を見るCXの視点 横断的な協力が必要

━━小川さん、田原さんに伺います。企業がCXやそのマネジメントに着目する背景を改めてお教えください。

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  • (写真左)法政大学 名誉教授 小川 孔輔氏
    法政大学経営学部名誉教授。マーケティング領域を専門とする。2007年から公益財団法人日本生産性本部に参画し、日本版顧客満足度指数(JCSI)の開発に携わり、企業の顧客体験に関わる設計改善やデータ活用をしたコンサルテーションを担当
  • (写真右)株式会社インテージ CXコンサルティング部 田原 祐太氏
    ITベンチャー企業を経て2011年にインテージ入社。以降は一貫してサービス業、耐久消費財メーカーなどのマーケティング支援やデータ分析に携わる

小川:「CS」はサービスが提供された結果ですが、結果を良くするためには当然、その過程であるカスタマージャーニーそのもの、顧客体験をより良くしなければなりません。他方で、顧客が求める体験はそもそも一律ではなく、多様であることもわかっていますし、企業としてもターゲットを絞るという考え方もあります。何をどうすることで、特定の層が満足してリピーターになっていただけるのか。顧客体験の中身を分析していく必要がある。これに世の中の企業が気づいてきた、というのが「CX」重視に変わった大きなポイントだったと思います。

田原:以前はビジネスパーソンの間でもCSとしか言われておらず、部署それぞれが一部分の満足度を高める取り組みにとどまる企業が多かった印象です。企業視点でもその過程にある体験を横断的に見ることが重要だと気づいた結果、CXという言葉のほうが多く使われるようになったと捉えています。

小川:自社のCXを見ていくと様々な課題が見つかると思いますが、着手の優先順位をつけることが重要です。スカイマークさんは最初に定時運航率の改善、2番目にサービス改善に取り組んだ。最も重要なポイントを適切に見極めて素早く実行されたことが成功につながったと思います。

━━ここからはスカイマークでこれまで行ってきたCSマネジメントの代表的な取り組みについて段階的に伺います。最初期からの取り組みの変遷をお教えください。

井上:2018年度にCSワーキンググループを発足し、「みんなの気持ちと本気で向き合う」というスローガンを掲げて、まずはお客様の声を聞くようにしました。具体的には、現場のスタッフが直接聞いたお客様の声を登録する管理システム「DUMVO」を導入し、最初はとにかくネガティブコメントの解消・改善を中心とした「不満足の解消」と「嫌われないスカイマーク」を方針に据え、破綻以前のネガティブイメージを払拭する目的でこのような活動をしていました。今は「満足度の向上」「より好かれるスカイマーク」に180度転換して活動しています。

 その後、よりお客様の声を直接聞くために「搭乗後アンケート」を導入しました。これが現在も続くお客様からの声を生かしたCS推進のPDCAサイクルの基盤になっています。アンケートは搭乗券のQRコードを読み取って回答いただくので、お客様の声(VoC)とともにお名前や路線なども自動的に登録されるシステムになっています。

 アンケート内容は、「空港評価(出発地空港での地上係員の対応)」「客室評価(航空機内での客室乗務員の対応)」「全体評価(ご搭乗についての全体満足度)」「利用目的」「利用頻度」「フリーコメント(任意)」の6つ。毎日500~700件ほどの回答データが集まります。問題はそれを現場に取り入れてもらえるかどうかでした。

集めたVoCが現場で役に立つために必要だったこと

井上:当初はアンケートの回答データを現場にそのまま丸投げしていましたが、やはりそれでは上手くいきませんでした。多岐にわたるご意見が届けられるため、現場からしてみれば「どこから改善して良いのか?」「優先度・重要度はどう見れば良い?」と思われるような伝え方だったと思います。そのため、現在はCS推進室が回答データを分析し、取り組みの重要度・優先度を決めて伝達しています。

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━━小川さん、田原さんから、これらの取り組みを踏まえてCXマネジメントの実践に求められる視点をお教えください。

小川:井上さんがおっしゃったように、最初はネガティブな面を潰そうとする傾向があります。しかしこれだと当たり前のことをしているだけなので、お客様は最終的には喜ばない。むしろCXを良くするためには、ポジティブな側面をいかに高めるかが重要です。スカイマークさんであれば、リピートしていただける施策、仕組みに持っていくこと。ネガティブ潰しを一定行った後、ポジティブ面に着目したことが良かったと思います。

 もう一つは、500~700件というアンケートの回答データを現場が一つひとつ見られるわけがないので、それをサマライズする組織を作ったということ。CS推進室が、現場の業務をサポートすることを厭わないで行っていることがうまく回っている要因ではないでしょうか。

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田原:加えて「きちんと人が間に入る」から納得感があるという側面もあると思います。最近ではVoCをシステムで簡単に分析・展開できるようになりましたが、それを受け取った現場が、結局何をして良いのかわからないという状況も発生しています。スカイマークさんの場合は人が入って現場と対話している。そういう企業はやはり伸びていますね。人が入り込むことに価値があるのだと思います。

VoC収集・徹底的な見える化で経営層と現場が共通認識を持つ

━━VoCの管理を始めてからどのようにPDCAを回してこられましたか。

井上:とにかく「データの見える化」には取り組んできました。たとえば、各支店の利用頻度、利用目的、年代、お客様からの評価、課題など、様々な切り口でお客様の声を「見える化」しています。支店ごとに取り組んでいるCS施策の効果もCS推進室で数値による「見える化」をして確認します。各スコア(お客様からの評価)をランキング形式で出して健全な競争意識を促し、達成したら称賛することも心がけています。

 その他、前年同月比のデータや、低評価の増加率、受託手荷物早期返却の感動コメント発生率など分析し、マンスリーで推移を数値グラフで「見える化」したり、各支店の出発便の評価を「見える化」したりして、評価が高い便と低い便を明らかにするなど、徹底的に分析し、各支店の通信簿を出しています。

戸田:CS推進室で集計した前日の搭乗後アンケートのスコアが朝8時には出てくるので、10時からの全体朝会でお客様からの評価を明確化し、かつお褒め、お叱りのコメントと共に発表することで、毎朝、社長・会長を含む全役員と各部門の部長、支店長に共有されます。早い時には午前中のうちに課題を洗い出し、夕方までに改善策の策定と実行に向けて動き始めます。

田原:これを毎日やっていらっしゃるのが素晴らしいところですね。何らかの形で顧客の声を取ることは重要ですが、それをフィードバックして改善につなげるPDCAがしっかり回っている。分析者が現場のオペレーションを良く理解しないまま、数字だけを見ている会社もあるのですが、スカイマークさんは元々現場経験のある方が、今の現場の方ときちんと対話されているのが功を奏していますね。

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━━モニタリングはどのように行っていますか。

戸田::まず、先述の搭乗後アンケートのデータを使って、デイリー・ウイークリー・マンスリーでPDCAを回しています。さらに、年単位でのモニタリングに役立てているのが「JCSI調査」の長距離交通業種におけるスコアです。これは自社の評価だけでなく、競合他社との比較ができる点で役立っています。

 また、毎月行っている「CSマネジメント会議」にて我々のデータと現場の感覚との間に乖離がないのかを確認し、我々が出す“通信簿”に対する感想や現場で実際に出ている施策効果を徹底的に相互確認しています。

 さらに毎年、CSキャラバンという活動を実施しており、こちらでは各支店や客室乗務員の部署などにお邪魔して意見交換の機会を作り、組織ごとに現状の課題やCSへの理解を深めています。

田原:一つの調査から「答え」が出てくるわけではないので、お客様のアンケート、現場視点の実感、社外による調査と、複数のソースから現状を解釈していらっしゃるところはポイントだと思います。

CXへの意識が現場に定着 職種の垣根を超えたサプライズ

━━現場スタッフとの連携は重要とのことですが、どのように巻き込んでいったのでしょうか。

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戸田:以前は役員2名と部長・支店長でCSの方針を決めてトップダウンで取り組んでいましたが、CS推進の改革の第一歩として行ったのが「会議体を変える」ことです。トップダウンをやめて、ボトムアップの形にしようと決めました。また航空会社は、パイロット、客室乗務員、整備士、空港スタッフと、高度な専門職の集団のため、それぞれの専門職をつなぐ共通言語としての「数値データによる見える化」で、納得感を高められると考えました。

━━CS改善に向けて支店ごとの自主的な取り組みが見られているそうですね。事例をご紹介いただけますか。

井上:那覇空港で見られた、職種の垣根を越えた「バトンリレー」の事例は、お客様に評価され、SNSでも多くの方にお褒めの言葉をいただけました

 きっかけは受託バゲージでお客様が花束を預けたことです。手荷物カウンターのスタッフが状況をお聞きし、そのお客様がプロポーズしたことがわかりました。その状況が地上のランプ職員にも伝わり、サプライズを計画。さらに情報共有を受けた客室乗務員が機内で「皆様、右手をご覧ください」とアナウンスし、花束を預けたカップルが外を見ると、ランプ職員が水で地上にアートとメッセージを描いていたのです。

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当時の様子。機内から外を見ると、バラの花の絵と「乗ってくれてありがとう いつまでもしあわせに」のメッセージが見えた

井上:カップルのお客様はその様子を感動コメントとともにSNSに投稿され、世間に大きく広まりました。このような自主的なサプライズの事例はいくつかあります。

戸田:ランプ作業者はいわゆる「裏方」で、お客様と直接接する部署ではありません。このような行動があったことに私も驚きましたが、立場を問わず、お客様を想った行動をしたいという気持ちが広がっていることに気づいた機会でした。

小川:個人の判断による現場の行動は、「上層部に怒られるかも」と思ったらなかなかできないものです。それを「良い取り組みだ」と言い切れる企業風土を作ってきたからこそ実現した事例だと思います。

田原:自主的な取り組みが行えているのは、各支店単位といったデータの切り分けができているおかげもありそうですね。現場としても自分の担当領域でなぜスコアが低いのか、原因を探りたいという責任感、良い体験を生みたいというモチベーションにつながると思います。データの切り分けという観点では、顧客の分類や注力する領域の決定ができていない企業はまだ多いと感じています。

 たとえば、次の表はインテージの独自調査結果から、「満足度に対して影響するサービス品質」をセグメント別に切り出したものです。年代で分けるだけでもこれだけの差異が生まれるわけですから、企業としては目的やコアターゲットを決めてから、それに応じて強化すべきをポイントを変える必要があると思います。

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インテージが調査から作成。顧客満足へ影響する要素はセグメントによって異なるため、目的に合わせた項目設定とターゲットに合わせた分け方で見ていく必要がある

一貫した顧客体験をデザインし、オペレーションを最適化する

━━最後にスカイマークの中川さんからは今後の展望、田原さんからはこれからCXマネジメントに注力していく企業に対してアドバイスをお願いします。

中川:CX戦略は、顧客接点のオペレーションだけでなく、DX戦略、経営戦略、業務戦略とも密接に関連しています。これらの戦略を束ねる鍵となるものは、コンセプトだと考えています。さらに一貫した顧客体験を提供するためには、このコンセプトを共有することが今後とても重要になると考えています。

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田原:初期段階のコンセプトの整理やパーパスの定義、それに基づく体験のデザイン、業務オペレーションへの連動、お客様を見ながらPDCAを回すという一連の流れはやはり重要ですね。

 ただ、調査をして初期段階をまとめるだけで疲弊してしまうというケースも少なくないでしょう。インテージは調査会社として広く知られていますが、調査の結果をこれらCXのマネジメント実践に落とし込んでいくための支援も行っています。プロジェクトの推進にお悩みの方がいましたら、ぜひご相談いただきたいです。

顧客理解や顧客体験(CX)の向上に課題を感じている方へおすすめ!

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この記事の著者

落合 真彩(オチアイ マアヤ)

教育系企業を経て、2016年よりフリーランスのライターに。Webメディアから紙書籍まで媒体問わず、マーケティング、広報、テクノロジー、経営者インタビューなど、ビジネス領域を中心に幅広く執筆。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

提供:株式会社インテージ

【AD】本記事の内容は記事掲載開始時点のものです 企画・制作 株式会社翔泳社

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MarkeZine(マーケジン)
2024/06/27 12:00 https://markezine.jp/article/detail/45767