本記事は『最高の打ち手が見つかるマーケティングの実践ガイド 3つのマップで戦略に沿った施策を実行する』の「序章 3つのマップでつかむマーケティングの全体像」から抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
プロセスマップで理解する全体像
本書は自社の立ち位置を確認する「プロセスマップ」、最適な指標を確認する「キーポイントマップ」、施策実行時のポイントを整理した「アクションマップ」の3つのマップでマーケティングの課題を解決していきます。まずは「プロセスマップ」から見ていきましょう。
プロセスマップの基本
「プロセスマップ」は、図解1の通り、マーケティング組織の立ち上げからスタートし、成果を創出するために実行すべきことをプロセスに落とし込んだものです。「何から手をつけてよいかわからない」「次に何をすればよいのかわからない」「今やっていることが正しいか不安」などといった悩みはすぐに解消できると思います。
また、本書は「プロセスマップ」の進行に合わせて内容を構成しているので、あなたの悩みに該当する箇所から読んでいただいても構いません。
8つのマーケティングプロセスをマーケティング組織の立ち上げ/立て直しを行う「組織の立ち上げ/立て直し期」、マーケティング戦略と戦術をプランに反映させながらアクションを積み重ねる「初動期」、成果創出を実現する「成長期」の3つのフェーズに分けています。それぞれのフェーズで取るべきアクションをA~Pに1つずつ振り分けているので、迷わずに進めていけます。
プロセスマップの活用方法
まずは、自分たちの現在地をプロセスマップで把握しましょう。プロセス1~8の実践度合いをチェックしてみてください。おそらく大半の方は、プロセスマップに記載されているアクションのほとんどが未着手か、あるいは中途半端に手をつけた状態になっているのではないでしょうか?
その状態からで大丈夫なので、順番に自身で指差し確認しながら、できていること、できていないことを整理してみてください。1~8のプロセスでできていないことや取り組みが不十分なところが、自分たちの現在地だと思ってください(すでに施策を実行して5の位置にいるように見えても、2のEが不十分だとまだ立ち上げフェーズといえる)。
プロセスマップを活用するうえで重要なポイントが2つあります。1つ目は、プロセスは一度通ったら終わりではなく、何度も何度も全体を塗り直すようにプロセスをなぞるイメージを持つことです。ここで提示しているプロセスは、それぞれを完ぺきに仕上げなければ次に進めないようなものではありません。
むしろ、あらゆるものを同時並行で進めていかざるを得ない状況の中では、重要度の低いアクションにリソースを投下しすぎてしまうことにもつながります。環境や状況が変化するたびにプロセスマップを見ながら全体像を確認し、取り組みが足りていないところはどこか? 次に何をすべきか? 注力すべきアクションは何か? を見定めるのに活用していただければと思います。ただ、迷ったら番号が若い順に着手するようにしてください。
2つ目は、関係者と一緒に指差し確認をすることでプロセスそのものへの理解と、目的や方法の共通理解をつくることです。現場でよく、マーケティング組織と関係者間でマーケティングに関する知識や経験にギャップがあることで、実行しようとしているアクションに理解や協力が得られないという問題が起きます。
信ぴょう性や納得感という意味でいえば、とくに未経験者で構成されたマーケティング組織の場合は説明にかけるコストも膨らみがちです。説得材料の1つとしてこの「プロセスマップ」を活用することで、説明を含めた調整にかけるコストを圧縮しスムーズな合意形成を図ることが可能になります。皆さんがイチから資料に起こす必要はないので、ぜひ有効活用してください。
実行力を増強するためのアクション
「プロセスマップ」では、「立ち上げ期/立て直し期」「初動期」「成長期」の3つのフェーズで行うべきアクションを明確にしました。これは、マーケティング組織の「実行力」を効率的かつ効果的に"増強"してもらいたい、という願いを込めてのことです。マーケティング組織における実行力とは、組織が計画した戦略や目標を効率的かつ効果的に遂行し、目指す成果を達成する能力を指します。
マーケティング組織が事業に貢献し続けるためには、組織としての「実行力」を増強していく取り組みにも注力し続ける必要がある、と考えています。そしてその実行力を増強するための効果的なアクションは、組織のフェーズによって異なります。いくつか例を挙げて考えていきましょう。
例えば「立ち上げ期」であれば、自分たちの事業や自社の状況、顧客、市場の現状を把握したうえで、組織の活動計画やマーケティングプランに落とし込んでいく準備が必要です。施策実行前の準備に時間をかけるべきなのですが、実際には「とりあえず、セミナーをやってみる」と見切り発車で実行した施策の成果が出ず、早々に組織立ち上げや立て直しの出鼻をくじかれてしまう、といったことはよくあります。
組織のフェーズの変化を認識し、組織の実行力を増強していくための適切なアクションが求められるのですが、当事者であるほど目の前のことに必死で客観的に見ることができないものです。「プロセスマップ」では、フェーズに紐づけてアクションを紹介しているので、自分たちが置かれた状況で実行すべきアクションをすぐに確認できます。四半期や半期ごとに振り返りを行うタイミングでざっと目を通してもらうだけでも効果的です。ぜひ、定期的に見直しをしてみてください。
それぞれのフェーズで行うアクション
立ち上げ期/立て直し期
立ち上げ期/立て直し期は、マーケティング組織を形づくっていくフェーズです。はじめに着手するのは「現状把握」です。把握すべきは、「自社」「事業」「顧客」の3つです。現状を把握するために得た生の情報の1つひとつが、アウトプット(活動計画、マーケティングプラン、カスタマージャーニー、コンテンツ生成フレームなど)すべてに影響します。裏を返せば、現状把握があいまいなままでアウトプットを作成しようとすると、いわゆる一般的な理論や定石、その方の経験などに頼らざるを得ず、どこか芯を食っていない中身のないアウトプットになってしまいます。
初動期
初動期は、「マーケティングプラン」を作成し、それにもとづいてリードの創出や商談機会の獲得などの目標達成を目指して施策を実行していくフェーズです。
このフェーズでは、自社特有の「コンテンツ生成フレーム」の作成と活用がカギを握ります。コンテンツ生成フレームは、顧客が求めていないコンテンツを無計画に生み出さないようにするためのフレームです。フレームをなぞりながら、リードの獲得や商談機会を得るためのコンテンツをどのように企画し届けるかを考えます。
コンテンツ生成フレームを作成せずにコンテンツを企画してしまうと、顧客が求めていないものを、顧客に届かない方法で届けようとしてしまいます。もちろん自分たちが狙っていた目的も果たせません。
最もわかりやすい例は、「新しいリードを獲得する目的で、自社のサービスを紹介するセミナーをハウスリスト(自社が保有するリードリスト)内に告知したら、集客数が1桁で新規リード獲得も0件だった」というケースです。経験のある方も多いのではないでしょうか?
これらは企画の内容やセミナーという形式、集客方法など、それぞれの選択が悪いのではなく、目的を果たすための適切なコンテンツを企画できていないことと、それを届ける方法がマッチしていないことが原因です。
新規リードを獲得したいのであれば、ハウスリスト外の集客手段を検討しないといけませんし、そもそも自社のサービス紹介に興味を持ってくれる人は基本的には少ないです。コンテンツ生成フレームを活用することで、こうした結果を招かないように適切なコンテンツを企画できる状態を目指します。
また、初動期では商談機会の獲得を目指してフォローする対象の条件やそのアプローチ方法についても検討します。商談機会を得るためには、顧客からのリアクションを待つか、こちらからアプローチするしか方法はありません。相手に不快感を与えないような顧客体験を追求しながらも、いかに能動的にアプローチできるかを考えていきます。
成長期
組織の規模や解決すべきテーマが広範になること、施策のレベルが上がっていくことで増大するタスク量と上昇する難易度、求められる成果に比例してマネジメントの重要性が増していくフェーズです。
マーケティング組織のフェーズが成長期に差し掛かってくると、施策の実行による短期的な成果の創出やマーケティング組織が管理している指標の改善だけでなく、中長期的かつ持続可能性の高いマーケティング活動による成果創出を実現するために、他部門への働きかけや連携強化を図ることも必要になります。それに伴い、マーケティング組織の活動範囲も広がり、施策の量も難易度も上昇していきます。
期待される成果が大きくなり、担う役割も広範になるからこそ、それらに耐えうる強固なオペレーションを構築して実行力を持つ組織をつくる必要があります。安定して施策を実行することと、さまざまな施策に挑戦していくことが求められます。一般的には「属人化」させないことを前提にオペレーションを組むことが多いですが、私は大きな成果を目指す場合はその逆であると考えています。
あえて属人化させることによってノウハウや学びを集中させれば、高い成果を生むための実行力を高めることができます。その後に、そこで得た経験や学びを組織に還元していく平準化を両立させることを意識しましょう。組織として大きなチャレンジをし続けることで成果を生むことができます。
重要なのは、施策を実行する従業員1人ひとりにしっかりと目を向け、全員が意欲的に働き、成長できるための取り組みを目指すことです。
キーポイントマップで理解する要点と流れ
「キーポイントマップ」は、リードジェネレーション施策によるリード創出からLTV最大化までの全体像と一連の流れを示したものです(図解2)。「キーポイントマップ」を左から右へ順に眺めながら、用語の意味や位置を確認するだけでマーケティング活動の全体像の把握が大きく進むと思います。また、それらに連動するように〝指標〟を整理していますので、それぞれの位置関係についても確認してください。一連の流れで構造を理解し、指標の位置関係も踏まえたうえで自社の状況を構造的に捉えられるようにできれば、改善すべきボトルネックを見つけやすくなります。
ただ、「キーポイントマップ」のような完ぺきな構造化は非常に難しいことも併せてお伝えしておきます。マーケティング組織として目指すべき理想像の1つではありますが、過度に構造化や分業体制の導入に固執したり、指標ごとに正確に数値を取ろうとするあまりに高負荷なオペレーションを組んだりすると、肝心の施策の実行が後手に回ってしまいます。
「キーポイントマップ」の全体像と流れ
「キーポイントマップ」のそれぞれの用語について解説します。
1.リードジェネレーション
リードジェネレーションとは、見込み顧客となる「リード」を獲得するための施策のことです。対象者に対してこちらから能動的に仕掛けていくPUSHの施策と、相手からのリアクションを待つPULLの施策があります。さらにリアルとデジタルに分けられます。リアルは名刺交換や直接のヒアリングを通じて顧客の情報を取得し、デジタルの施策はCVポイント(フォーム)を通過してもらうことで情報を取得します。
リードジェネレーションは、取引につながる見込み顧客を獲得し、商談や受注へとつなげていくことが目的であるため、不特定多数のリードを獲得すればよいのではないことに注意しましょう。
2.リードクオリファイ
リードクオリファイとは獲得したリード(企業対象)を「企業軸」と「顧客軸」で評価し、適切なフォローを迅速に行うための取り組みです。獲得したリードすべてに対して企業を対象とする「企業軸」での評価を行い、ターゲットかNonターゲットかに分けます。そこから個人を対象にした「顧客軸」でメインターゲットとなる属性のリードなのかを評価します。
例えば、「株式会社EVeMのマーケティング部長の富家」というリードを獲得した場合、まずは「株式会社EVeM」という企業軸での評価を行い、その後、顧客軸で「マーケティング部長」を評価する流れとなります。リードクオリファイを適切に行うことで、注力すべき顧客が明確になり、マーケティング・インサイドセールス・営業間のスムーズなリードの受け渡しや営業生産性を向上させる狙いがあります。
リードクオリファイの実行には、明文化されたターゲットの条件と関係者間の意思疎通と合意が必要不可欠です。厳しすぎる条件や、抽象度が高くデータソースを用いて分類できないものは、適さない場合があります。
3.リードナーチャリング
リードナーチャリングは、2で選別したリードに対してコンテンツを通じてアプローチし、フォローを行う対象へと引き上げる施策を指します。リードナーチャリングは人によって解釈が異なる傾向にあるため、次の目的をしっかり意識して実行してください。
- コンテンツに継続的に接触してもらうことでポジティブな印象を抱いてもらう
- 自社のサービスの理解度を高めてもらうための情報提供と接触を促す
よくあるのが、ポジティブな印象を抱いてもらうためのコンテンツ提供に意識が偏ってしまい、自社のサービスを伝えることを忘れてしまったり、過度に恐れてしまったりすることです。セミナーの満足度を重視するあまり、自社のサービスを紹介する時間を一切取らないようにしていたら、「いつもおもしろいセミナーを開催してくれるけど、何の会社なのかよくわからない」と、アンケートで書かれてしまったという笑い話も聞いたことがあるほどです。あくまでもバランスが大切であり、偏りすぎないように注意してください。
フォロー対象へと引き上げる際は、こちらから能動的にフォロー対象にする方法と、顧客の「アクショントリガー」を検知し受動的にフォロー対象にする方法の2つを組み合わせる必要があります。リードクオリファイを行った後に、フォローの対象とするかどうかの判断を入れる理由と2つの方法を組み合わせたほうがよい理由は、本書にて詳細を解説します。
4.フォロー
フォローは、フォロー対象となったリードに対して主に商談機会の獲得を目的としたアプローチを行う施策を指します。電話やメールによるフォロー活動が主になります。
フォローするにあたり重要なのはリード管理とコミュニケーションシナリオの設計です。リードに関する情報やフォロー状況を適切に管理し、「今日フォローするべき顧客は誰なのか?」「それはなぜなのか?」「どういう目的でどんなシナリオでフォロー活動を行うのか?」を設計しましょう。
フォロー活動では、相手と良好な関係の構築を目指すことが重要です。リストの上から順番にとにかくコールする、というのは施策としては成立するかもしれませんが失う信頼も大きいです。こちらの都合で購買プロセスを強引に進めようとするのではなく、まずは役に立つことを意識して価値のある情報提供を行い、併せて自社の商品やサービスの価値を端的に伝え、双方が合意したうえで商談に進むようにしましょう。
5.トスアップ/リサイクル
トスアップは、それまでのコミュニケーションログと一緒に、商談機会を営業へ引き渡す取り組みを指します。事前にヒアリングした内容や、接点の情報、商談の機会を得た案内の内容などの"コミュニケーションログと一緒に"がポイントで、ただ単に商談機会だけを渡すことはトスアップとはいえません。コミュニケーションログが引き渡されない商談は、顧客にとってがっかりさせてしまう結果につながりやすいからです。
リサイクルは、それまでのコミュニケーションログと一緒に、失注やクローズとなった商談のリードをフォロー対象のリードとして担当者に引き渡す取り組みを指します。リサイクルの仕組みがなければ、常に新しいリードから商談機会を獲得しないといけなくなりますし、失注前には商談の場で具体的な話をしているはずなのでもったいないです。リードリサイクルの設計とオペレーションを構築することではじめて、獲得したリードやコミュニケーションのログが資産としてストックされ、活用できるようになります。
トスアップもリサイクルもどちらも重要になるのは、コミュニケーションログと一緒にしかるべき担当者に引き渡すことです。顧客から信頼され、期待を持って商談の場にきてもらうためには一貫した顧客体験を提供する必要があります。顧客情報や接点情報、それまでのヒアリング情報などはすべて情報資産であり、それらにもとづいたコミュニケーションを提供することが、顧客との信頼関係構築の第一歩であると考えてください。
6.商談
商談は顧客と対話し、合意形成を図る取り組みです。一般的に営業の領域となりますが、マーケターは商談の領域もしっかりと意識を向ける必要があります。なぜなら、商談の現場は一次情報の宝庫であり、一生懸命実行してきた施策が成果につながるためのラストワンマイルだからです。商談の場でどのような会話が展開されているか、自社や商品・サービスの価値を伝えるためには何が必要か、マーケティングで打ち出しているメッセージが現場のミスコミュニケーションにつながっていないかなど、考えることはたくさんあります。
ついつい後回しにしてしまいがちですが、商談の現場で何が起こっているのかをつかみにいくことは非常に重要です。「最近、商談に同席できていないな……」と思った方は、すぐに商談同行を依頼しましょう。
7.LTV最大化
LTV(Lifetime Value)最大化は、取引開始後の顧客に対して、顧客生涯価値(顧客が一生のうち自社にもたらす収益の総額)の向上を目指す取り組みです。そのアプローチには「顧客単価の向上」「粗利率の改善」「購買頻度の増加」「継続期間の延長」のための提案や施策があります。
またそれら以外にも、自社の商品やサービスを他者へ推薦してくれるような関係性を築く活動も含みます。既存顧客に対するLTV最大化のための仕組みや仕掛けを設計し、営業やカスタマーサクセスなどの関係者と連携しながら推し進めていきます。新規顧客の獲得に夢中になり、既存の顧客がおざなりになってしまっているケースも少なくありません。そのようなときは、継続提案のアプローチリストやアクションがどのように計画・管理されているのかを確認しましょう。
指標を設定する
全体像と流れのイメージをつかめたら、指標についても理解を深めましょう。挙げている1つひとつの指標は、LTVや受注から逆算し因数に分解しています。例えば、「商談数」は、「ターゲットフォローリード数」と「商談化率」をかけて算出できますし、「有効商談数」は先ほどの「商談数」に「有効商談化率」をかけることで算出されます。
指標はそれぞれ定量的に計測できる環境をつくりましょう。指標ごとに数字という事実で捉えることにより、正確かつ迅速にボトルネックを特定できるようになります。
指標を扱ううえで重要なのは指標ごとに「定義」と「抽出条件」を明文化することです。人によってその指標の認識や定義が異なったり、抽出する人によって数字が違ったりすると、指標を利用した現状把握や仮説設定、アクションに悪影響を与えてしまいます。「定義」と「抽出条件」は誰が見てもわかるように明文化し、必ず関係者との合意のうえで決定するようにしましょう。
とくに、「ターゲットリード」や「フォローリード」「商談」「有効商談」などの定義は、後工程の人たちが前工程の人たちの仕事を評価する側面もある(リードや商談機会を受け取った人が渡した人にフィードバックする)からこそ、あいまいにならないよう注意してください。評価や振り返りに影響してしまいます。
ここまで指標について解説をしてきましたが、KGI・KPIの設計に悩まれる方はまずは「キーポイントマップ」の指標に当てはめて考えてみてください。事業貢献(受注・売上・粗利)に責任を持つことを前提に、自分たちの組織の実行力を冷静に見極めたうえで、自分たちで管理できてかつ短期的に成果を上げやすいものを指標にすることをオススメします。
ただ、その一方でKGI・KPIはあくまでも自分たちが実行しようとしている戦略やアクションによって大きく変わることも忘れないでください。「キーポイントマップ」で整理した指標は参考にしつつも、「自分たちの取り組みの目標とその進捗を図るための指標はいったい何か?」を考え、取り組んでみて、そこから学びを得て改善していくことのほうが大切です。定量的な目標の数字にとらわれて、その影響でアクションの優先順位がうまくつけられなくなったり、組織が疲弊してしまったりしては元も子もありません。
アクションマップで理解する実行のポイント
「アクションマップ」は、組織全体の実行力を捉えて活用し、増強を図るにあたって注意すべき1~6のポイントを整理したものであり、実際に施策を推し進める際に使うものです(図解3)。
施策で課題を解決し、成果へとつなげていくためには、組織に宿る「実行力の総和」がカギを握ると考えています。アクションマップで示したポイントは、組織の「実行力」を形成する要点です。画期的な企画を考えることができても、組織に「実行力」がなければ思い描いたような成果を出すことも難しいでしょう。もちろん、オペレーションやマネジメントが整っていない組織では、中長期的かつ持続可能性の高い成長や成果創出には期待できません。
テクノロジーの進化や競合の参入など、外部環境の変化がある中で、組織が成果を出すためには、内部の状況変化にも適応せねばなりません。より高い成果を目指す場合は、施策の幅を広げるためのチャレンジが常に求められ、課題を捉えて解決するためのアクションも次第に高度なものになっていきます。具体的なアクションを検討する際も、実際に施策を推し進める際も、「アクションマップ」を見ながら実行力の礎となるポイントを俯瞰で捉えるだけで足りていないことやすべきことに気づけると思います。
アクションマップの概要
アクションマップは、「見直しポイント」「コンテンツ生成フレーム」「オペレーション」「マネジメント」「ミーティング」「コミュニケーションライン」の6つの要素で構成されています。それぞれのポイントについて解説します
1.見直しポイント
リードジェネレーションからLTV最大化までのそれぞれの施策に対して、見直すべきポイントを整理しています(図解3と図解4)。うまくいかないな、と思ったときにこの6つの分類を客観的に眺めてみてください。きっと、どれかがちょっとずつうまくいっていないことによって、全体に悪影響を与えているということに気づけるはずです。
「プロセスマップ」で現在地と進め方を確認し、「キーポイントマップ」でボトルネックとなっていそうな施策を捉え、改善すべき指標を決めたら、「見直しポイント」を確認し、見直すべきポイントを見定めてください。具体的な活用方法は本書にて解説します。
2.コンテンツ生成フレーム
コンテンツ生成フレームは、顧客が求めていないコンテンツを無計画に生み出さないようにするためのフレームです。コンテンツを企画するときに、思いつきで企画したり、「やってみたい!」という気持ちだけが先行して企画したり、他社のコンテンツを単にマネして企画したりするだけでは、狙った成果を得ることは難しいです。コンテンツ生成フレームは、ペルソナにもとづいて明らかにしたカスタマージャーニーに沿って、顧客との関係性をフェーズごとに区切り、それぞれのフェーズに適したコンテンツの「目的」と「軸」、「形式」を整理しています。
オペレーション
オペレーションの工程は「分析→戦略→企画→構築・実装→運用→計測→評価→改善」となります(図解3と図解5)。何かに取り組む際は、これらの工程を思い浮かべながらオペレーションを組んでみてください。
また、オペレーションがうまく回っていないときや、うまく成果に結びついてないときの振り返りにも活用できます。この工程に過去に実施した施策の流れを当てはめてみてください。例えば「計測→評価→改善」の工程がおろそかになっている場合、施策がやりっぱなしになっていて振り返りができていない状況がわかり、「計測~改善」を担う人材を追加・育成するアクションを考えられます。これらのように、オペレーションを工程ごとに切り分け、おろそかになっている部分がないかを意識してみると、オペレーションを強化するために必要なアクションが見えてきます。
4.マネジメント
「マネジメント」というテーマは本来、非常に広範な内容を扱いますが、本書ではあくまでもマーケティングの実行に関わる部分だけをピックアップしています。
組織の実行力を高め、成果創出や課題解決のためのアクションを実行していくためには、適切なマネジメントが必要不可欠です。マネージャーは、メンバーのスキルやWILL・CANを把握し、適切な役割に人材を配置し(アサイン)、組織体制を構築していかなければなりません。それだけではなく、メンバー1人ひとりが持つ感情ともうまく向き合いながら、ディレクションすることでアクションを実行と成功に導く必要があります。
また、関係者への適切なレポーティングをすることで、現状や今後についての共有、意思決定に必要な情報を渡すことや、メンバーの成長を促すための「期待と評価」、さらなる成果創出を目指した「改善活動」のサイクルを回すことも求められます。
スマートな戦略・戦術を実行するには、適切なマネジメントをされた組織やメンバーが必要です。組織のマネジメント力が不足していると、施策の実行や成果に影響が出るだけでなく、組織の実行力を生かせず疲弊を招き、退職者を発生させてしまうような悪影響も出てしまいます。
5.ミーティング
ミーティングのマネジメントは非常に重要なテーマです。現在実施しているミーティングを書き出し、「目的」「アジェンダ」「参加者」「頻度・時間」「意思決定者」「ディスカッションルール」「ミーティング結果の反映先」これらを文字に書き起こしてください。おそらく、はっきりと書けない項目のあるミーティングが出てきます。そのミーティングは効果が薄い可能性が高いため、思い切ってやめるか、参加者でそのミーティングのあり方について話し合ってみてください。
もちろん、人同士で仕事を進めていくためにはミーティングも含めたコミュニケーションが必要です。そもそも組織間におけるコミュニケーションエラーの大半は、必要な人同士が、適切なテーマを、最適な頻度で話せていないことが要因で発生すると考えています。前述した7つの要素を意識して、ミーティングのマネジメントにも気を配っていきましょう。
コミュニケーションライン
関係者とのコミュニケーションが適切に行えているのか、は盲点になりやすいです。組織の成り立ちや仕事の進め方、商習慣や会社の文化を背景に、意図せず関係者間のコミュニケーションが分断されてしまっていることはあります。
例えば、プロダクトの開発チームと営業チームは案件を通じてコミュニケーションを取る一方、マーケティングチームと開発チームはそうした会話の場が持たれていない、などです。役割や機能、部門間でコミュニケーションが行われているかを確認してみると、そうした分断に気がつけると思いま す。
また、お互いの間には「理解の壁」「感情の壁」「合意の壁」があります。3つの壁については、本書で詳細を解説します。