「理想的なビジネスの成長」を理解しよう
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):連載の第13回では、「利益=売り上げ-費用」そして「売り上げ=顧客数×単価×頻度」という、売り上げの構造について伺いました。売り上げを上げるには、もちろん3つの要素がすべて向上することが理想ですが、なかなか難しそうです。
西口:N1分析で「WHOとWHATの組み合わせ」を見つけるのが大事だと繰り返し述べてきましたが、WHOを絞り込まないと結局は誰にも響かないプロダクトになり、施策の効果もあいまいになります。
同じように「売り上げを上げよう!」とだけ掲げて、WHO・WHAT・HOWのどの要素が問題か、どの要素なら短期的に引き上げられそうかを分析しないまま「HOW」の打ち手を進めても、成果は期待できません。
MZ:その分析には、顧客数と平均購入単価と平均購入頻度がどうなっているか、推移を追えばいいのでしょうか?
西口:もちろん、およその数値を把握することは大前提ですね。ただ、この売り上げ構造とセットで、そもそも「理想的なビジネスの成長」がどのようなものなのかを理解する必要があると思います。
「WHOとWHATの組み合わせ」が現状で何種類あり、各要素がどうあるべきかは、次の3つの事業ステージごとに考えることができます。
(1)0→1の段階:新事業や新プロダクトの立ち上げ期、スタートアップ期
(2)1→10の段階:大規模に投資する前の利益性の確立期、初期グロース期
(3)10→∞(無限大)の段階:大規模な投資による規模の最大化期、積極拡大期
「0→1(ゼロイチ)」:プロダクトの最初の顧客を見つける
西口:「0→1」から見ていきましょう。マーケティングや特にスタートアップ領域などで、新事業や新しいプロダクトの立ち上がりを“ゼロイチ”と言ったりしますが、0→1は最初の顧客、つまり最初に「このプロダクトがすごく欲しい」と対価を払う人が出てきた段階です。
連載の第8回で、創業者や開発者がN1になる例として、ソニーのウォークマンは創業者の一人である井深大氏の要望に基づいていた話を紹介しました。これを事業ステージの観点で捉えると、ウォークマンの最初の顧客は井深氏だったわけですね。
MZ:事前に「WHOとWHATの組み合わせ」の仮説を立てる時に深掘りしたN1が、最初の顧客ということですか?
西口:理想は、そうですね。ただ、N1分析で「こういうものなら欲しいですか?」と聞いて手応えがあっても、それはあくまでコンセプトの状態です。
仮説が当たっていて、かつ本当に買ってもらえるくらい要望を具現化できていて、そして発売の情報がその人にしっかり届いたら、価値を見出して最初の顧客になっていただける可能性は高いでしょう。
西口:でも、独自性のあるプロダクトほど、すぐには理解されないことも往々にしてあります。たとえば2008年にiPhoneが日本で発売された時、ガラケー(スマホ以前の携帯電話)で普及していたお財布機能などが使えないといった理由で、当時はガジェット好きの方々の間では酷評だったそうです。おそらく、未使用でスペックだけを見た反応だったのでしょう。しかし、次第に使用者が増えていくと評判がガラッと変わりました。
使ってみないとわからない、というのは顧客の立場だと腑に落ちますよね。たとえば食品なら、実際に食べてみないとわかりません。仮にコンセプト段階で評価が高くても、実際のプロダクトの評価は違うこともあるので、注意したいところです。