「なんとなく好き」な会社を目指す、必要なのは情報バリアの突破
「うるるとさらら」で知られるダイキン工業(以下、ダイキン)は、1924年大阪にて創業し今年100周年を迎える。世界170カ国以上に展開し、約98,000名いる従業員の8割以上が海外で勤務するグローバルな企業だ。住宅用から業務用まで幅広いラインナップの空調機器(エアコン)を取揃える空調事業が、売上の約9割を占めている。
東氏はTikTok施策について語る前に、ダイキンのコミュニケーションおよびベースとなるブランドの考え方に言及した。同社では、エンゲージメントの高い順から「約束」「なんとなく好き」「嫌いではない」「知っている」「知らない」の五段階を示し、「知っている」以上をビジネス上の“ブランド”と定義しているという。
「ダイキンと似た名前の企業やブランドもあるため、社名の認知だけでは他社と混同される恐れもあります。ダイキンの主力商材がエアコンであること、『空気で答えを出す会社』であることを生活者に認知される(=「知っている」状態にする)こと、そのうえで『なんとなく好き』と思ってもらうことを目指しています」(東氏)
スマホなどの普及により消費者の受け取る情報量は爆発的に増えている。消費者側も処理しきれないため、企業からのメッセージは届きにくくなっている。東氏は「情報にバリアを張っている状態」と問題定義し、このバリアをいかに破るのかが施策のポイントとなってくるという。
しかし、エアコンに関する情報バリアは他の商材に比べても頑丈だという。というのも、エアコンの買い替え周期は約13年と言われており、めったに情報収集をしないためだ。
「お客様は、購入してから13年間はエアコンに対して興味がありません。壊れて初めてエアコン購入を検討し、検討開始から7日程度で購入するという極めて稀な商品なのです」(東氏)
若年層に特化した施策で採用や将来の購買につなげる
東氏が所属する広告宣伝グループでは、13年に一度のチャンスにダイキンを想起してもらうために、PESOメディア(Paid、Earned、Shared、Owndの略)を駆使して情報を届けている。常日頃から生活者に対してダイキンのブランド価値をあげておくことが重要だからだ。
特に18歳から24歳の若年層、学生や新社会人におけるダイキンの認知率はとても低く、全世代の平均と比べても3~4割ほど下がる。その年代は、エアコンを自分で買う機会も、エアコンについて考える機会もないだろうことは容易に推測できる。先ほどの情報バリアがさらに頑丈なターゲットである。
だからといって購買層になる20代後半からコミュニケーションをとっても、昔から認知を獲得し馴染み深い競合他社には差を開けられてしまう。就活の際にも、知らない会社は候補に上がりにくく、エントリーもされない。
だからこそダイキンは18歳から24歳の若年層を広告施策のメインターゲットとして特化し、認知と好感度を向上させることで採用や将来的な購買につなげてきた。
最終的に目指すところは「なんとなく好き」である。とはいえ、若年層はそもそもダイキンの名前すら知らない状況だ。そこでまずは社名と事業内容の認知を目的に据えた。
「ストレートに、ダイキンは『空気で答えを出す会社』だと伝えたかったのですが、社名も知らず、何の会社かもわからないのに伝えても、伝わらないと考えました」(東氏)
東氏は、若年層の頑丈な情報バリアを破る方法は2つあるとし、1つはクリエイティブの力、もう1つはターゲットが興味を持つものに紐づけることであると説いた。この2つは若年層だけでなくコミュニケーション全体にいえることだという。