マーケティング成果に影響するまでに要する時間
その1つは、ブランドの力は数週間や数ヵ月ではなく、数年間を経て発揮されるということです。消費者のブランド心理(知識、関連性の認識、印象や評価)が市場シェアなどのマーケティング成果に影響を及ぼすタイムラグを分析したところ、2年間以下では効果が確認できなかったそうです。この結果について彼らは「ブランド・エクイティは数週間や数ヵ月ではなく、数年にわたって構築される」(Datta, Ailawadi, and van Heerde, 2017, p.15)と述べています。単純に解釈すると、ブランド・マネジメントの効果が表れるには、少なくとも3年以上かかるということでしょう。
この分析結果をご覧になって、「大切なのはスピード感だ。効果が出るまで何年もかかるブランドは、現代のマーケティングに適していない」と思った方もいるでしょう。しかし、そう感じた方は、ぜひ視点を逆にしてみてください。ブランド力はすぐに変わらないということは、それが非常に安定したものであることを意味しています。つまり、ひとたび強いブランドを構築できれば、継続して売り上げや利益を獲得できるわけです。ブランド・マネジメントは瞬発性には乏しいかもしれませんが、骨太の戦略といえます。
強いブランドを手に入れる「ファン・マーケティング」
強いブランドを手に入れる方法として、いわゆる「ファン・マーケティング(fan-based marketing)」が広く注目され始めました。一部では2010年代の中頃から話題になっていましたが、2018年に佐藤尚之氏の『ファンベース』(ちくま新書)が発売された影響が大きかったと思います。著名なマーケターの本によって、2020年頃から「ファン・マーケティング」という考え方が一気に広がりました。
私は「ファン・マーケティング」が支持されたことを、自然な流れだと考えています。冒頭で述べたように、2010年代のマーケティングはデジタル・メディアにおける施策を中心としたものであり、製品の見せ方やプロモーションを工夫することで得られる「即時的な反応」が重視されてきました。
しかし、言うまでもなくマーケティングにはバランスが大切です。「新規顧客の獲得」と「既存顧客の維持」はどちらも必要ですし、「短期的な施策」と「長期的な戦略」は適切に組み合わせることで効果が増大します。プロモーション・ベースの短期的な施策ばかりが注目された反動として、「やっぱりブランドも大切だよね」という認識が芽生え、「じっくりファンを育てよう」という意識が浸透したように思います。
ファン・マーケティングが抱える5つの問題
ところが、改めて考えると、これまでのファン・マーケティングには、「〜だろう」であるとか「〜のはずだ」など、臆測や経験則に基づく部分が少なくありませんでした。私はこれまでのファン・マーケティングには5つの問題があるように感じています。
- ファンとは何なのか?
- 誰がファンなのか?
- ファンは何をしてくれるのか?
- どうしてファンになるのか?
- ファンだけが大切なのか?
これらは、いずれも大切なことです。しかし、いま一つ曖昧なままにされてきたと感じている皆さんも、多いはずです。明確なエビデンスに基づくことなく、なんとなく、ファン・マーケティングが導入されるケースもあったようです。
一体、どうしたら良いでしょう? 実は、こうした問題点をクリアできる考え方があります。それが「ブランド・リレーションシップ」です。