「数字のチェック=振り返り」ではない
シャノンの関西支社長/西日本統括として、数多くの企業と向き合ってきた浅野氏は、BtoBマーケティングで停滞を感じる企業に「“振り返り”が足りない」という共通点を見出しているという。
振り返りは本来、定量と定性の両面で行われるべきものだが「多くの企業においては数値に過剰なフォーカスが当たっているのではないか」と浅野氏。振り返りが予実管理に留まり「施策を始めたときの前提条件や目的が維持されているか」「見直しが必要か」といった視点が抜け落ちていると指摘する。つまり、多くの担当者が「目の前の数字をチェックすること=振り返り」と考えているのだ。浅野氏曰く、数値化が容易なデジタルマーケティングの台頭が、この状況に拍車をかけている。
シャノンは創業以来、BtoBマーケティングの変遷とともにサービスを提供してきた。BtoBマーケティングの王道施策である展示会に出展した後、必要になる名刺のデジタル化サービス。フォローアップのためのリアルセミナーを管理するシステム。そしてデジタルマーケティングにおける施策基盤としてのマーケティングオートメ―ション。直近では営業DXを推進し、マーケティングとの融合を図るためにSFAや生成AIを活用したコンテンツアシスタントを提供することで、コンテンツ工業化時代に疲弊するマーケティング担当者を支援してきた。
ところが、そんなシャノンでも過去に手痛い失敗をしている。展示会やセミナーなどのオフライン施策に投じていたリソースを、全てデジタルに割り振った時期があった。その結果、リード数と商談数は増加したものの、受注数が減少したという。
「ホワイトペーパーを読んだだけで、買う気は簡単に起きません。態度変容を促すためには、お客様に考える時間を取っていただく必要があります。闇雲に接点を増やせば良いというわけではありません。当社ではこの失敗を踏まえ、オフライン施策にも再度リソースを振り分けたところ、受注が147%に増加し、V字回復を果たしました」(浅野氏)
浅野氏は「デジタルマーケティング=悪」と言いたいわけではない。活用方法を誤ると、本来の目的を達成できずに終わる可能性が高いという考えだ。「デジタルとオフラインをうまく組み合わせない限り、成果はなかなか上げられない」と語る。
問い合わせ数が4倍になったワケ
浅野氏によると、急激なデジタルシフトによって自社のマーケティングに“改めて”停滞を感じる企業が増えているそうだ。一体どういうことなのか。かつてのBtoBマーケティングには、社内で必要性を実感したり理解を得たりできない点に起因する停滞があった。ところがコロナ禍の到来により状況は一変し、デジタルマーケティングの普及によって停滞は解消したように見える。
しかし今度はオンラインの施策を数多く実行した結果、一つひとつの施策の効果が薄まり、競合するコンテンツも倍増したことから、かつてほどの効果を感じられないのだという。浅野氏は、停滞を感じるBtoBマーケティング担当者の行動を次のとおりに分類する。
1.「これを実施すれば成果が出る」という“型”や“定石”を探す
2.積極的に新しい施策を探す
浅野氏自身「まず何からやれば良いか」「どんな企業にも当てはまる定石はあるか」などの相談をクライアントから頻繁に受けるそうだ。Webサイトに関しては、自社のマーケティングを通じて発見した三つの定石がある。第一の定石は「資料請求と問い合わせのフォームを分ける」だ。
「Webサイトを訪問するユーザーの中には、自発的に情報を取りに来る人もいれば、上司からの指示を受けてアクセスする人もいます。後者はただ指示に従っているため、問い合わせ時に何を書けば良いかわかりません。『とりあえず資料だけ欲しい』と思う方もいるでしょう。問い合わせフォームと資料請求フォームを分けた結果、問い合わせ数が4倍増加したケースもあります」(浅野氏)
第二の定石は「Webサイトのファーストビューに資料請求ページへの導線を設置する」だ。
「ファーストビューに製品詳細ページへの導線を設置し、製品詳細ページの下部に資料請求ボタンを設置している場合もありますが、これでは回りくどく離脱する人も多いです。ファーストビューに資料請求ページへの導線を設置した場合と、製品詳細ページへの導線を設置した場合を比べると、申し込み率に2倍近い差が見られました」(浅野氏)
第三の定石は「個人情報の入力フォームを改善する」だ。資料請求ページやホワイトペーパーのダウンロードページをフォーム一体型にするほか、キービジュアルのA/Bテストも有効だという。
「ちなみに、キービジュアルは静止画より動画のほうが効果的です。また、資料の概要もページ上に記載すると、ダウンロード数が記載しない場合の約4倍になったケースもあります」(浅野氏)