フェムテックを通じて、日本の社会構造が見えてきた
MarkeZine編集部:Femtech and BEYOND.での活動を通じて奥田さんが感じていることはありますか?
奥田:私が携わったことのある事業開発を通じて、日本発でフェムテック事業を立ち上げることの難しさを感じています。フェムテックは当事者の課題を起点とする市場ですので、当事者の課題を理解し、強い課題感を持って事業化しないと、なかなかサービスやプロダクトを実際に世に出すことができません。ですが、日本ではいまだ決定権者の多くが男性のため、女性の課題に対して共感を得られにくい状況があるのです。
しかし翻ってみると、それは欧米と比較して会社の上層部に女性が少なく、決定権者にダイバーシティが少ない企業が多いから――フェムテックを通じて、日本の社会構造が見えてきました。今は「女性の困りごとを解決したい」という当初の思いに加えて、「フェムテックを通じて社会構造を変えられたら」と考えています。

MarkeZine編集部:女性の生き方、働き方などに関する社会課題にも直結してくるのですね。ちなみに、奥田さんが目指している夢やゴールは何でしょう?
奥田:最終的には「フェムテックという言葉が消えてほしい」と思っています。フェムテックは男性中心の社会で女性が働いていく中、イーブンでない部分を拾い上げ、解決につなげるものとして脚光を浴びました。
しかし、男女がイーブンな世界になれば、もう女性にフォーカスする必要はありません。女性だけを対象にしない「ヘルステック」「ジェンダーテック」のような言葉になっていくはずです。叶えるためにはまだまだ壁が多いですが、最終的に目指すのはそのような世界ですね。
フェムテックから「ジェンダーテック」へのシフトを目指して
MarkeZine編集部:新規事業やブランディングなどで、フェムテックに注目している読者も多いと思います。MarkeZine読者にここで伝えたいメッセージはありますか?
奥田:フェムテックを進めていく上で、まずは私たち一人ひとりが、女性特有の課題を「隠さなきゃいけないもの」としてしまう意識から、脱却する必要があると思います。
フェムテック商品をギャラリーで展示している時、一般のお客様もよくいらっしゃるのですが、プロダクトの説明をすると恥ずかしそうに帰られていくんです。やはり、まだまだ性の違いからくる健康の問題においては、「恥ずかしいから隠す」というカルチャーが根強く残っていると感じました。
最近ではオープンな場でも生理にフォーカスが当たることが増え、少しずつ話しやすいカルチャーが生まれていますが、生理だけでなくすべての課題に対して向き合っていくべきです。「なんか嫌だ」「なにかおかしい」と感じたことを見過ごさずに、どうして嫌だと思ったのか、自分に問いかけ、可能であれば人に話してみてほしいです。そうすることで、隠れていた課題が見つかりやすくなるのではないでしょうか。
MarkeZine編集部:「フェムテックという言葉がいらない世界」を目指すにあたり、どんな仲間が増えていってほしいと思いますか?
奥田:ありがたいことに、自然発生的にフェムテックに興味をもつ人は増えているので、フェムテック市場は今後も大きくなっていくだろうと思います。そこからさらにもう一歩先を見て、男女どちらにもフォーカスを当てる「ジェンダーテック」に踏み込んでいく場合、今度は男性ならではの問題や生きづらさにも着目していく必要があります。

女性だけでなく、男性の課題についても「なんとかしなければ」という熱意をもつ仲間が増えていってほしいですね。男女どちらにもフォーカスが当たり、同じテーブルで課題解決に向かえるようになった時、初めて「フェムテック」という言葉は消えるのではないでしょうか。