ビジネス視点で「フェムテック」を捉える際のポイント
MarkeZine編集部:直接的にフェムテックと関係がなさそうな企業でも、意外な切り口で女性の課題解決に貢献できる可能性はあると思います。企業はビジネスの観点から、どのようにフェムテックを捉えればよいでしょうか。
奥田:フェムテックビジネスは当事者の困りごとが起点となります。自分が当事者でない場合でも、まず当事者の切実な声を聞きに行ったり、見たり調べたりすることから始めるのがよいでしょう。
ただ、現時点では、いきなりマス市場を狙うのは難しいと思います。理由は2つあって、1つはフェムテック関連の情報を積極的に探している人がまだ少ないこと。もう1つは、大量生産がしにくいという事情から、商品の価格が比較的高くなってしまうためです。先述したGUの吸水ショーツの例もありますが、とはいえ、現在は課題の掘り起こしが大切で、そのためにはターゲットを研ぎ澄まさなければならない状況です。だからこそ、やはり“当事者意識”が重要であるように思います。
MarkeZine編集部:センシティブな話題も含まれるので、プロモーションにおいても表現が難しい場合が多いと思います。クリエイティブを設計する上で気をつけていることはありますか?
奥田:課題を持つ人たちの声をきっちりと拾い上げ、みんなが共感できる形で届けることですね。届け方を間違えると、一部の人たちのみが得をする世界だと誤解されかねません。私たち「Femtech and BEYOND.」では、電通の得意とするクリエイティブコミュニケーションを活かし、的確に捉えたターゲットに対して、丁寧に情報を届けることを大切にしています。
そして、時にはフェムテック関連の活動に対して批判的な意見をいただくこともあるのですが、どんな意見もしっかり受け止める姿勢を大事にしています。

電通のフェムテック専門チーム「Femtech and BEYOND.」
MarkeZine編集部:奥田さんが立ち上げられたFemtech and BEYOND.についても、ぜひ詳しく教えてください。Femtech and BEYOND.は、フェムテック領域でどのような活動をしている組織なのでしょうか?
奥田:Femtech and BEYOND.の活動には大きく3つの柱があります。
1つ目はクライアントワーク。女性の課題に向き合って新規事業や新製品を作りたい企業、またフェムテックの文脈を活用した商品・サービスのリブランディングを検討している企業へのコンサルティングおよびマーケティングサービスを行っています。
2つ目は、メディアと協力して、広い意味でのフェムテックを取り巻く課題感を世の中に発信していく活動。例として、朝日小学生新聞で「生教育プロジェクト」 と題し、親子間の対話を軸においた性教育の取り組みを実施しています。他にも、テレビ番組を制作したり、メディアやイベントに登壇したりして、女性が感じている課題に関する啓蒙活動を行っています。
3つ目は、自分たちでプロダクトを作ること。直近の例では、女性の鉄分不足問題の啓蒙・解決を目指して「Fe:Project」 を立ち上げました。日本はほかの先進国と比べて圧倒的に、鉄分不足な人が多い国と言われています。鉄分不足は貧血だけでなく、PMSや更年期障害の症状悪化にもつながってしまいます。この課題の解決策の1つとして、軽量で女性でも扱いやすい鉄製のプライパンとお味噌汁専用パンを、大阪の金属加工会社 藤田金属さんと共同開発しました。
これら3つの柱を軸として、電通ならではのクリエイティブとビジネス視点を活かしながら最適なソリューションを提供し、フェムテック市場を創り出しています。