消費者の趣味・嗜好が多様化 コミュニケーション設計が困難に
今回紹介する書籍は『SNSから抽出するパーセプションでつくる ビンゴ型コミュニケーションプランニング』。著者は、横山隆治事務所(シックス・サイト)の代表や、ベストインクラスプロデューサーズの取締役、CCCマーケティングのエグゼクティブアドバイザーを務める横山隆治氏と、ソーシャルメディアマーケティング事業を行うトレンダーズです。
横山氏は、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアムの起案・設立に携わったほか、ADKインタラクティブの代表取締役、デジタルインテリジェンスの代表取締役などを歴任。企業のマーケティングメディアをペイド、オウンド、アーンドに整理する「トリプルメディア」の考え方を日本に紹介するなど、インターネットの黎明期からネット広告の普及、理論化、体系化に取り組んできた人物です。
一方、トレンダーズは、2000年に設立して以来、トレンドを捉えたマーティングソリューションの開発・提供を行ってきた企業。近年では、インフルエンサー事業とデジタル広告を中心にクライアント企業が抱えるマーケティング課題解決を支援しています。
SNSの普及で多くの顧客との接点が作りやすくなったことで、認知段階、検討段階といった各フェーズにSNSも組み込んでプランニングしようと考える担当者は多いでしょう。しかし、SNS社会においては消費者ごとに購買に至るまでの行動やタッチポイントが大きく異なり、一筋の行動を想定した設計ができなくなっているのも事実です。横山氏は「従来使われてきた双六型のカスタマージャーニーマップは時代にそぐわなくなっている」と指摘しています。
このような状況の中で、効果的なプランニングを行うにはどうしたらよいのでしょうか?
その答えとして本書で解説されているのが、著者らが提唱する「ビンゴ型コミュニケーションプランニング」です。
「ビンゴ型」でパーソナライズをわかりやすく理解
ビンゴ型コミュニケーションプランニングでは、消費者一人ひとりが異なる“ビンゴカード”を持っていると考えます。このビンゴカードに載っている数字は、消費者がブランドに対して持つパーセプション(認識)を表しており、1列の組み合わせが揃うとビンゴ、つまり、購入の意思決定がなされたと考えます。
横山氏はこのコミュニケーション設計方法の特徴を次のように挙げています。
- パーセプションの組み合わせ(カード)は複数ある
- 順列ではなく組み合わせである
- カードごとのコミュニケーション戦術に落としやすい(p.5)
ビンゴゲームは、各人のカードに書かれた数字の配列がランダムであり、ビンゴとなる順番が異なるものです。著者は、消費者が購入の意思決定をするまでに必要とされるパーセプションチェンジ(認識の変容)もこのビンゴの穴と同様に、その組み合わせは人によって異なり、それらが起こる順番も異なるものだと考え、プランニングで考慮すべき前提条件としてルールに落とし込んでいます。
このように多様な価値観から選び取られる消費行動をイメージに落とし込むことで、従来の双六型では構造上設計が難しかった「一人ひとりに合わせた異なるコミュニケーション」を「特定のカードに穴を空けてもらうこと」として捉え、わかりやすく整理しているのです。
ビンゴ型コミュニケーションプランニングで“顧客起点”の戦略設計
本書は先ほどの考え方を基礎に、現況に合わせたコミュニケーションプランニングに必要な手順を解説しています。たとえば、ターゲット設定についてもこの手法を用いることで理解が深まります。
先述の通り、同手法ではカードごとに異なる配列でパーセプションを設定します。このそれぞれ異なるカードを作成する作業が、「ターゲット設定を意味している」と横山氏は解説します。
本書で推奨されているのは、このカード、つまりターゲットごとに、購入決定を促すための具体的な施策(ビンゴさせるための施策)、そこで用いるメディア、メッセージを設計するという方法です。
このように“ターゲティングとそのターゲットに向けた施策の設計を同時に行う”ことが、消費者の価値観の多様化が進む現在の状況においてより効果的な戦略設計につながるといいます。
本書では、基礎的な考え方だけでなく、実務に活用できるような具体的な手順を解説しているほか、活用事例も紹介。従来の双六型カスタマージャーニーから脱却し、様々な購買行動を取る消費者のインサイトを捉えてコミュニケーションプランニングを行うための考え方を詳細に解説しています。
現状のプランニングで利用すべき媒体やメッセージが整理できているか疑問を感じる方や実効性が足りないと感じる方、自社ターゲット層のインサイト理解やそのアプローチの組み立てに悩んでいる方は、本書を参考にしてみてはいかがでしょうか。