市場を席巻するスタートアップ3社の挑戦
高橋(Adjust):本日は今最も熱いスタートアップ3社の社長にお越しいただきました。改めまして、各サービスの紹介をお願いいたします。
岩永(SAMANSA):「SAMANSA(サマンサ)」は世界中のショート映画・ドラマ・ドキュメンタリーを楽しめるサービスです。クリエイターと直接契約し、オリジナル作品の自社製作も行っています。5月には、米国向けのサービスも開始しました。
澤村(emole):「BUMP(バンプ)」は1話3分のショートドラマ配信アプリです。1話97円(税込)でドラマを楽しめます。最初の数話は無料で視聴可能にしており、マンガアプリのドラマ版をイメージしていただくと、わかりやすいかもしれませんね。
伊藤(STRACT):「PLUG(プラグ)」は、オンラインショッピング時にクーポン・キャッシュバック検索、最安値検索ができるブラウザ拡張機能です。iOSの標準ブラウザであるSafariに対応しており、アプリをインストールしていただくと、Safariで買い物をしている際にオファーが自動的に届くようになっています。eコマース側のツールというよりは、ユーザー側のゲートウェイという位置づけです。
タイパの時代、意識すべきは「心理的ハードルを下げること」
高橋(Adjust):「タイパを意識している」と答える人が80%を超えるなど、近年は、生活の中での時間効率が非常に注目されています。一方で、行き過ぎている面もあるのではないかと違和感を覚える人たちもいるようです。皆さんは現在のタイパ志向をどのように理解されているのでしょうか?
澤村(emole): タイパには大きく分けて二つの傾向があると考えます。一つは「本当に時間がないため、少しでも時間を節約したい」という効率主義的なタイプ、もう一つは「心理的ハードルを下げようとする」タイプです。
澤村(emole):後者は自分が好きになれるかわからないのに、時間を投資すべきかは判断できない、つまり長いコンテンツに対する心理的なハードルを下げたいという背景があります。好きな時に多様なコンテンツに触れられる環境の中で生まれた傾向であり、この場合では忙しさは関係ありません。
「BUMP」では、ショートドラマの切り抜き動画をSNSで配信することで本編への誘導を図っているのですが、これはユーザーの心理的ハードルを下げることにもつながっています。このように入り口を設計し、心理的なハードルを下げ、短時間で楽しみ始められるように意識しながらコンテンツを制作しています。
伊藤(STRACT):タイパを意識することは結局のところ、心理的ハードルを下げること、つまり安心感を届けることにつながると思います。これこそが本来私たちが提供すべき価値です。“簡単なこと”として提示できれば、多くの人が習慣化して行動するようになり、それが正しいアプローチだと認識されるのではないでしょうか。
岩永(SAMANSA):ショート映画にも通じることだと思います。タイパの影響かどうかは定かではありませんが、2時間の映画を見るために映画館に行くことが徐々に億劫になる傾向が出てきました。よほどおもしろい作品でなければ、映画館に足を運ぶ意味を見出せない人々が増えているのです。そのような状況下で、10分から15分程度で気軽に映画が見られるSAMANSAは、心理的なハードルを下げられているのではと思います。
高橋(Adjust):皆さんの話を伺うと、タイパを考える際に押さえておきたいのは、ユーザーの心理的ハードルが何であるかを見極め、それを緩和することだと思いました。これによって、ユーザーがアプリを気軽に使ってみようと思えるようになり、そこから濃縮された体験を届けていけるということですね。
モバイルアプリトレンド2024:日本版
AdjustとSensor Towerが共同調査した本レポートでは、日本市場でのアプリパフォーマンスに関する戦略的なインサイトをお届けします。ゲーム、ファイナンス、Eコマース、コネクテッドTV、PC、コンソールなどのチャネルのデータ分析から、アプリの成長機会を探ります。
CSからコンテンツ設計まで 愛されるアプリを作るために
高橋(Adjust):続いては「アプリの愛され方」というテーマです。皆さんのアプリは高評価であることが特徴的だと思いますが、その要因はどこにあると考えますか。
澤村(emole):「BUMP」の場合は、純粋にアプリが良いと思っていただいているのだと思いますが、あえて特定の一つを挙げるとするならば、最初の数話を視聴していただいた方にレビューのレコメンドを表示するようにしているという点になります。
澤村(emole):「BUMP」で最も離脱が発生しやすいのは第1話です。視聴者は最初の1分半から3分の間に、そのコンテンツが自分にとっておもしろいかどうかを潜在的に判断し、おもしろくないと感じた場合、すぐに離脱してしまう傾向があります。そのため、この初期段階をいかに乗り越えるかという視点で設計を行っています。最初の数分間で視聴者の興味を引き付け、継続視聴につなげられるようにしています。
逆に言えば、最初の数話を視聴してくれているユーザーはコンテンツやアプリに対して好感を持ってくださっている場合が多いので、高評価をつけてくれやすいです。
伊藤(STRACT):異なる視点でお話すると、私たちはCSを重視しています。お問い合わせは基本的に不満があってするものだと思うのですが、それに対して丁寧な言葉遣いを意識するだけ、定型の謝罪をするだけではダメだと思うんです。
伊藤(STRACT):当社の場合、時には距離感を近づけるように、明るくポジティブな印象でスタッフが対応してくれています。担当者自身のキャラクターが活きているという点もありますが、そのおかげで当社のまっすぐな気持ちがユーザーの心に伝わるのではないかと。これによって良い評価が生まれやすく、あるいは悪い評価が生まれにくくなっているのだと考えています。
高橋(Adjust):確かに丁寧な対応と心地良い対応が同じとは限らないですね。興味深い視点だと思います。
「バズって終わり」とならないための戦略
高橋(Adjust):現在どの分野に最も多くの資金を投入しているか、スタートアップ企業の経営者としての観点からお聞かせください。
岩永(SAMANSA):やはりおもしろいコンテンツを提供することが最も重要だと考えています。タイパやショートコンテンツという概念以前に、まずユーザーに「おもしろかった」と感じてもらうことが大切でしょう。
岩永(SAMANSA):広告でいうと、TikTokやYouTubeショートを活用して集客を行う場合、どうしても20代を中心とした特定の属性に偏りが生じる傾向があります。そのため、広告を活用して多様な顧客層に向けてコンテンツを届けるテストを実施しています。
また、チームは、マーケティングに精通している人というより、TikTokなどを日常的に使っている若い世代で作ることを意識しています。
高橋(Adjust):タイパ重視の傾向が強まると、すぐに飽きられてしまうのではないかという懸念が出てくるのではないでしょうか。どうすればユーザーが継続的に利用し、着実に積み上がっていくのかという点について伺いたいと思います。
岩永(SAMANSA):「SAMANSA」の場合、予告を見て「これを見たい」と思って入会し、満足して継続する方もいますが、その作品だけを見て退会する方も一定数はいます。大きくバズるとより多くのユーザーが入ってきますが、その作品のバズに起因するからこそ一時的な入会もその分多くなる。これはバズることの弊害にも見えるかもしれません。しかしこの状況では、新たなコンテンツの予告でもバズを狙うことが重要だと考えています。もちろんアプリ内で次の作品を見ていただく仕組みも整えていますが、何度もバズらせることで「おもしろいコンテンツがまた出てきた」「他にもおもしろいコンテンツがある」という認識を広げることが重要だからです。
モバイルアプリトレンド2024:日本版
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苦難から急成長へ 戦略の転換点
高橋(Adjust):続いて、成長軌道に乗る前の苦悩をお聞かせください。特に「PLUG」は、サービスの特性上、その仕組みや魅力を伝えるのに苦労したのではないでしょうか。
伊藤(STRACT):そうですね。当初はInstagramの広告を活用してもまったく効果を上げられないなど、サービスを続けるかどうかさえ迷ってしまうような状況でした。しかし、TikTokのショート動画広告を試してみたところ、それまで1,000円ほどだったCPIが、突如150円にまで下がったんです。「PLUG」の特徴である自動価格比較やクーポン自動発見機能は、TikTokショート動画のフォーマットと相性が良かったことがわかりました。ニーズがないのではなく見せ方の問題だったのだと思います。
澤村(emole):「BUMP」の場合、リリース初日のインストール数を重視していたものの、期待を下回ってしまいました。そこで、スタッフでもある私の妹が「絶対にバズる」と確信していた「切り抜き動画」を試してみたところ、状況が一変。ダウンロード数が急増し始めました。その後は切り抜き一辺倒で数字を伸ばしています。
高橋(Adjust):拡散を狙う切り抜きコンテンツだと、「素人感が重要」といわれることがよくありますよね。プロ感のある作り込まれた動画と素人が作ったような動画、どちらが良いと考えますか。
澤村(emole):高度に作り込まれたコンテンツは、視聴者に「きちんと構えて見なければならない」という印象を与えると思います。一方、素人が作ったように見えるコンテンツは、視聴者が受動的に、たまたま見つけたような感覚を持ちやすいのではないでしょうか。心理的ハードルを低くすることにもつながると思います。
急成長スタートアップが語る次なる挑戦
高橋(Adjust):最後に、皆さんの野望をお聞かせください。
岩永(SAMANSA):当社では「映画の自由化」を提唱しており、長編だけでなく、短編や中編など、様々な長さの映画を多くの人々に楽しんでいただけるよう取り組んでいます。映画の本質を大切にしながら、オンライン上に限らず、映画館での上映やイベントでの上映など、オフラインでのリアルな体験も積極的に提供しています。米国での展開も好調で、今後は海外展開にも力を入れていく予定です。
澤村(emole):「創造で挑戦できる世界へ」というビジョンを掲げており、クリエイターたちがドラマのような大規模なコンテンツや作品に挑戦できる場を創出したいと考えています。引き続きプロダクトの強化とコンテンツ数の拡大に注力していきます。
伊藤(STRACT):私たちの目標は、「デジタルコンシェルジュとしての役割を果たす」ことです。現在は物販のイメージが強いかもしれませんが、実際には売上の3割が既に金融サービスによるものとなっています。今後も多角的なサービスを展開することで、ユーザーの多様なニーズに応えられるよう努めます。
高橋(Adjust):岩永さん、澤村さん、伊藤さん、本日はありがとうございました。皆さんのご活躍を今後も引き続き期待しております。
モバイルアプリトレンド2024:日本版
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