“内輪”感を払拭するための工夫
──プロモーションを実施する上で苦労した点はありましたか? また、今回の企画が成功したポイントはどのような点にあったのでしょうか。
猪股(キリン):企業間の“内輪ノリ”に見えないかが不安の一つでした。本企画の根幹には、「ヘルシアをこれからも飲み続けていただきたい」「事業譲渡に対して不安にさせたくない」という想いがあります。どのようなアウトプットならば内輪ノリに見えないか、お客様が常に真ん中にいることを意識しながら議論を重ねて練り上げていきました。
猪股(キリン):議論をするにも、両社でブランドの育て方に対する考え方やコミュニケーションの在り方は異なりますし、メッセージ一つを取ってもそれぞれの考えがありますので、コミュニケーションが難航する場面もありました。それでも「中心にいるのはお客様である」という原点に立ち戻り、互いに歩み寄ることで、アウトプットにつなげていくことが大事だと学びました。
長年愛され続けるブランドを育むために
──長年愛され続けるブランドをつくるために、マーケターが考えるべきこと・やるべきことは何でしょうか?
長谷川(花王):商品の選択肢が溢れている中で、生活者に対して我々が提供できる価値は何か、またブランドを愛してくれている人はどのような人なのかを理解することが大事だと思っています。お客様が元々持っているパーセプション、情報や商品に触れたときの感じ方を細かく言語化し、顧客視点を持ち続けることを意識しています。
柳田(花王):生活者の困りごとに徹底的に向き合うことが何よりも大切だと考えています。ヘルシアを例に挙げると、「内臓脂肪を減らすこと」はゴールではありません。「健康になって孫と週末も元気に遊びたい」「会社でだらしないおじさんに見られたくない」など、その人の本当の願望や悩みに目を向けなくてはならないのです。
柳田(花王):そしてエビデンスや技術だけではなく、生活者に寄り添っているブランドだと理解してもらうこと。それが「千三つ(1,000種類の新商品を出しても3つしか生き残らないことを意味する)」と言われるほど厳しい飲料業界で、長く愛される秘訣ではないでしょうか。
猪股(キリン):自分たちのビジョンや「こうしたい」という想いは必要ですが、お客様がブランドに期待する価値や「なぜ商品が存在しているのか」というブランドパーパスに沿って、アクションを続けることが大事だと考えています。
猪股(キリン):お客様を観察し、世の中の情勢を捉えながら、「ターゲットのお客様はこんな生活を送っていて、こんなことで悩んでいるのでは?」と想像し、仮説を積み重ねると答えが見えてくることがあります。それが必ずしも正解とは限りませんが、考え続けることを止めず、失敗してもそこから学び、また次につなげる。そのサイクルを続けることで、真に愛されるブランドへと成長していけるのではないでしょうか。
──ヘルシアはキリンのもとで新たなスタートを切りました。花王から受け継いだ想いと、キリンビバレッジ独自の強みを活かし、今後どのような進化を遂げるのか期待が高まります。