テレビCMのリーチにYouTubeは及ばないのか
MZ:YouTubeが広く普及している今でも、テレビCMのリーチには遠く及ばないのでしょうか。
奥田:単体でのリーチに関しては、視聴者数の違いからテレビCMが引き続き優位であり、今もテレビは根強い存在といえます。一方で、テレビCMだけでもリーチに限界があるので、YouTubeや他の媒体も組み合わせて総合したリーチを増やしていくことが大切になります。
また、テレビCMの実施を検討する上でポイントになるのが「ROI=LTV÷CPA」の分解式です。デジタル広告であればCPAが見合うまで入札や配信セグメントを縮小することが検討できますが、テレビCMにおいては配信手法による差が作れません。その際にはまずクリエイティブ改善がカギになりますが、プロダクト自体を改善する手もあります。
つまり先述の式は、プロダクト改善によりLTV側を引き上げること、そして広く多くの人に刺さるように作り変えることでCMあたりのCVRを引き上げ、CPAを改善することができます。またLTV改善には、商材の単価を上げることや、クロスセル・アップセルも含まれます。
良いCMを作るため越えるべき「2つの壁」
MZ:テレビCM施策を行う際にどのようなステップで進めていますか?また、マーケターの役割についても教えてください。
奥田:「スタサプENGLISH」では、テレビCMの制作を次の5つのステップに分けています。
STEP.0:事前設計
STEP.1:訴求調査
STEP.2:ビデオコンテ調査
STEP.3:プレ調査
STEP.4:実放映
奥田:私たちは「良いCM=効果の出るCM」と定義しています。最終的なゴールは、顧客に「この商品いいな」と思っていただき、購買行動をはじめとするアクションを起こしてもらうことですが、そのためには「2つの壁」を越える必要があると考えています。それが「視聴者の壁」と「ターゲットの壁」です。
CMは、見たい番組がある中で急に流れてくるので、見てもらえない。そんな状況で、視聴者としてまずCMに気づいていただき、覚えていただけるものにすることが、最初に越えなければいけない「視聴者の壁」です。
その中からターゲットとなり得る方に商品を認識してもらい、利用意向を形成する段階に進みます。これが「ターゲットの壁」になります。「ターゲットの壁」にこだわるあまり、見てもらえないCMになるのは、「視聴者の壁」を意識できていなかったからでしょう。一方で、印象にだけ残る映像作品のようなCMも意味がありません。CMにおいては、この「2つの壁」を同時に超えることが重要になります。
STEP.0の事前設計で行うのは、CMの初期仮説作りと仮説検証プロセス全体の設計です。まず「視聴者の壁」を越えるために、ターゲットユーザーが見る可能性のあるCMを洗いざらい確認して「想起の競合」を学習しています。同業他社にとどまらず、好感度の高いものや攻め方の筋で成功しているものなど、ターゲットに気づいてもらう第一のハードルとしてどこを越えるべきかを見定めるのです。
MZ:プロダクトの競合にとどまらず、よく見られるCM全般が想起の競合となるのですね。
奥田:「ターゲット(TGT)の壁」を越えるために行う3C分析は、一般的なものだと思います。KBF(購買決定要因)や商品のユニークポイントについて整理していくイメージですね。また、クリエイティブだけがCMではないため、KPIやROIの設計、どんなタイミングでCMを打つべきか、といった部分も含めて一筆書きで整理をしていきます。STEP.1の訴求調査からSTEP.4の実放映に関しては、次回以降で詳細をご説明したいと思います。