明らかなマイナス点がなくても、人は離反する
MZ:前回、ブランディングの目的は「プロダクトの想起を容易にし、初回購入の確率を高め、その後の継続購入も促進すること」と解説いただきました。ここまでリピートがいかに重要かを伺ってきましたが、ブランディングはリピートにも大きく関与するのですね。
西口:はい。私もそうですが、皆さんリピートするプロダクトのほうが少ないですよね。気軽に買うような商品や、アプリのようなデジタルのプロダクトも、一度使って離反するものがほとんどでしょう。
MZ:そのうちで、ブランディングが有効なのが、「なんとなく忘れてしまっている場合」ということですね。
西口:そうですね。まず、広告やSNSで見て興味を持っても、初めて購入する際に忘れていては初回購入になりません。記憶していただかないとダメですね。次に、初回購入し商品体験していただいた後、それ以降は買わなくなる離反には、明らかにマイナス点がある離反と前回お話しした「忘却離反」の大きく2種類があります。
買ってみたが期待と違った、不満足だったなどマイナス点があるなら、プロダクトの改善が必要かもしれません。ただ、その顧客が求める便益が伝わっていないから「期待外れだった」と思われているだけのケースもよくあります。
WHATとして何を訴求するのかを考え直して再度展開すれば、離反を防いだり、離反顧客に復帰してもらったりできる可能性はあります。訴求がずれていないかを、プロダクト改善より先に検証すべきです。
一方で後者の忘却離反は、特にマイナス点はないし、本当は継続購入したいのになんとなく買わなくなる場合です。どんなプロダクトでも、こうした離反は多いと思います。単に忘れている人に思い出してもらって購入につなげるのは、前者よりも短期的に取り組めそうですよね。
ブランディング効果は、顧客が満足した「結果」として生まれる
MZ:なるほど。それこそテレビCMのジングル音のように、パッと接触しただけでプロダクトを思い出して購入に至れば、ブランディングの成功なんだと腑に落ちました。
西口:そもそもブランドに対するイメージは、顧客が便益や独自性を感じた商品を実際に使い、「価値の再評価」という体験があってこそ形成されます。プロダクトの便益と独自性を「価値がある」と評価して初めて、「また買いたい」と思うのです。
それを記憶に鮮明に残すために、ロゴやブランド名、デザインなどのブランディング要素があります。そして、その後にブランディング要素に接することで、以前体験した価値が想起されるのです。
なので、まずは顧客が価値を見出す便益と独自性をプロダクトが提供できるかどうかが重要で、かっこいいおしゃれなロゴやデザインだけでは購入には結び付きません。ブランディングの効果は、顧客満足の「結果」として生まれるものであって、ブランディング施策が満足感を生み出すわけではありません。
その点をよく理解した上でプロダクトの現状の課題を考え、今ブランディングに注力すべきなのか、すべきならどういった方向性があるのか、などを検討していくことが大事です。
西口氏のマーケティング入門連載【第16回】はこちら!