ネーミングとパッケージを変えた「メラノCC」
MarkeZine編集部 吉永(以下、MZ):前回の第16回から、ブランディングについて学んでいます。ロゴやネーミング、パッケージやデザインなどによるイメージ戦略と思われがちなブランディングですが、プロダクトの便益と独自性を印象付けて、リピートを促すための手段なんですね。
西口:はい。印象に残して覚えてもらう、思い出してもらうことはブランディングの大きな役割です。ただし、プロダクト名称を覚えたところで顧客にとって価値のある便益と独自性がなければ、購入に至りません。それは「単に知っているけど、私には関係ないプロダクト」ですね。
ビジネスとして意味あるのは、そのプロダクトの対象とする顧客=WHOが明確で、その顧客にとって価値がある便益と独自性=WHATがある前提で、忘れられないよう記憶に残し、初回購入や継続購入を促す施策がブランディングです。
ブランディングの定義:
顧客がプロダクトに「価値」を見出した「便益と独自性」を、ブランド名・色や形・デザイン・ロゴ・音・言葉など何らかの形でそのプロダクト特有の記憶として残し、そのプロダクトの忘却を防ぎ、想起を容易にし、初回購入や継続購入へとつなげるための手段
MZ:前回は、人気の「もなか」を「幻の行列もなか」にネーミングを変更する話を挙げていただきましたが、実例もありますか?
西口:私がロート製薬で担当した美容液「メラノCC」は、実は以前は「しみ・そばかす対策液EX」という名称でした。長らく売り上げが伸びず低迷していたので終売対象になっていましたが、よく調べてみると、少数の顧客に「ビタミンCのイメージと効果感」を便益と独自性として捉えていただけていることがわかりました。
いわゆる“超ニッチなプロダクト”でしたが、同じようにビタミンCと効果感に価値を見出してくれる潜在顧客がもっといるのではないかと考え、その便益と独自性がしっかり伝わるように名称を変更しました。
そしてパッケージも、他の競合品とあまり差がないデザインから、プロダクト名称を含めてビタミン「C」感と効果感を押し出し、パッケージ色もビタミン感を印象付ける黄色にしてリニューアルしました。ほぼ新プロダクトのように、再投入したのです。
「極潤」「男前豆腐」……商品名で覚えてもらう重要性
MZ:大きなリニューアルを実施したのですね。それは、ヒットにつながったのですか?
西口:中身は変えていないのに、リニューアル前をはるかに超える新規ユーザーに購入されました。また、ビタミンCのイメージと黄色で覚えやすくなったことで指名購入が増え、新規顧客もリピーターも圧倒的に増えました。元々、ビタミンCが含まれた商品として強い便益と独自性はあったものの、それまでは顧客の記憶に残りにくかったのです。
ブランディング施策によって顧客の記憶に残ると想起されやすくなり、新規の方も継続の方も購入につながりやすくなります。結果、新規もリピートも増えていく好循環が生まれます。その後もロート製薬の皆さんが育てられて、今では、ドラッグストアでも1、2を争うスキンケア商品になっていますね。そのブランディングの過程に関われて本当に光栄に思います。
この他に、同じくロート製薬の肌ラボシリーズのうち「極潤」という漢字名のシリーズも、ネーミングの工夫が売り上げに寄与している一例でしょう。“潤いを極める”という、圧倒的な保湿力の想起を促しています。今では漢字の商品もよく見かけますが、当時の化粧品類はほとんどが英字の名称でパッケージもシンプルだったので、「極潤」は店頭でもよく目立っていました。
MZ:確かに、一度使って「いいな」と思っても、店頭でパッと見つからないと他の商品を買ってしまいますよね。ECサイトにしても、名前を覚えていないと検索しにくいです。
西口:そうなんです。ECは特に、指名検索・指名購入が重要ですね。これは、思い出せること、想起できることが前提ですよね。
また、プロダクトそのものでは便益が伝わりにくいようなものも、覚えてもらうことが大事になります。たとえばスーパーでもよく見かける男前豆腐店の「男前豆腐」は、その好例だと思います。