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エビデンスベーストマーケティングの基礎

マスマーケでしか越えられない「浸透率の壁」とは?ダブルジョパディでシャンプー市場を大解剖


シャンプー市場におけるダブルジョパディの例外

 先述したとおり、ダブルジョパディにはいくつかの例外があることも知られています(Dowling & Uncles, 1997; Scriven et al., 2017)。たとえば、小さなブランドや新商品、機能や価格が他と明らかに異なる場合はダブルジョパディから外れることもあります。今回の実証研究に関して言えば、高価格帯の機能性シャンプー、いわゆるプレミアムヘアケアカテゴリーは浸透率の割にロイヤルティが高く出るのではないかという事前仮説がありました。

 しかし、浸透率のフィルターを緩め、さらに価格帯を分けてみても、機能や価格による境界線は特に確認できませんでした。次の図では緑のドットが高価格帯のシャンプーブランド、青のドットが通常価格帯のシャンプーブランドを表しているのですが、別々にDJラインを引いても適合度が低すぎて採用できませんし、むしろ「小規模×高価格帯」のブランドは行動ロイヤルティが低いようにすら見えます。

 配荷が限定的である可能性も高いですが、いずれにせよ「高価格帯のシャンプーは浸透率の割にロイヤルティが高い」という仮説は積極的には支持されないように思います。

 一方、浸透率の低いブランドはロイヤルティの散らばりが大きいことも見て取れます。シャンプーカテゴリーにおいては、実は機能や価格よりも、ブランドサイズが1つ大きな境界条件になるのかもしれません。つまり、浸透率が低すぎると、「アベイラビリティが高まるほど行動ロイヤルティも高まる」というDJサイクルに入らないのではないかと考えられます。

■シャンプー市場における経験的一般化:ダブルジョパディの境界条件

・先行研究:機能や価格が明らかに異なるブランドは、ダブルジョパディから外れることがある(Scriven et al., 2017)

・再現研究:日本のシャンプーカテゴリーでは、機能や価格よりブランドサイズが大きな境界条件になる。つまり浸透率が低すぎると、「アベイラビリティが高まるほど行動ロイヤルティも高まる」というDJサイクルに入らない可能性がある

マーケティングのアプローチは「使い分ける」ことが重要

 別の言い方をすれば、シャンプーカテゴリーにおいても、「小さなブランドの育て方」と「中規模以上のブランドの育て方」は異なるのではないかということです。

 その意味では、ニッチセグメントを狙うと一時的に行動ロイヤルティが高くなることは、たしかにあります。たとえば、専門店やフラッグシップ店、ターゲット特化型あるいは地域特化型の小規模チェーンなどがそれに該当します。また、ローンチ時や小さなブランドが最初に狙うポジションとしては、それが理に適っていることもあると思います。

 しかし、ニッチなだけに潜在利用者が限られ、また流通・配荷が不足するケースもあるため、比較的早く飽和するという側面も否めません(e.g., カテゴリーヘビーユーザーしか気づかない/買わない、母数が小さいので少数が購買しただけでも高ロイヤルティに見える、など)。実際、ニッチブランドでも成長する時はDJラインに沿って成長することが知られています(Dowling & Uncles, 1997)。

 要するに、短期的にロイヤルティが高くても、そのまま浸透率が増えていくケースは稀であり、一般的にはあまり期待できないということです。

 こうしたことから筆者は、事業の成長段階によってマーケティングアプローチを使い分けることが大切だと方々で述べています。

 実際、先行研究によると、効果のある取り組みは新商品と成熟ブランドでかなり異なってくるようです。たとえば、ゼロイチフェーズやローンチ直後はCEP(カテゴリーエントリーポイント)を絞り込み、「行動ロイヤルティの高い商品属性」や「ブランド側が考えたベネフィットをそのまま価値として受け入れてくれる受容層」にフォーカスすることが大切です。

 しかし、それだけで成長を続けるのは難しいので、ある時期からは浸透率メインの戦略にシフトしなければなりません。

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この記事の著者

芹澤 連(セリザワ レン)

マーケティングサイエンティスト。数学/統計学などの理系アプローチと、 心理学/文化人類学などの文系アプローチに幅広く精通。 非購買層やノンユーザー理解の第一人者として、消費財を中心に、 化粧品、自動車、金融、メディア、エンターテインメント、インフラ、D2Cなどの戦略領域に従事。 エビデンスベースのコンサルティングで...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です

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MarkeZine(マーケジン)
2025/08/22 18:59 https://markezine.jp/article/detail/46606

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