顧客が「何となくいい」と感じ、選ばれるための付加価値
MZ:ブランディングの3つの目的ですか。
西口:はい。吉永さんがおっしゃった「売る・買う以上の情緒的な効果がある」というのは、目的(2)の「付加価値の創出」にあたるかと思います。
順に解説してみます。目的(1)はこれまでお話ししてきた通り、新規顧客となる潜在的な顧客および既存顧客に対して、便益と独自性を記憶に残して想起率を高め、忘却されにくくして、購入の可能性を高めることです。これが続けば継続的な購入を促すことができ、事業の安定につながります。
西口:目的(2)の「付加価値の創出」は、前述のようにあくまで一つ目を満たした上での話です。機能的な便益と独自性を記憶に残すだけでなく、さらにプラスの価値として「情緒的や感情的な便益と独自性」を乗せるのです。くだけた言い方をすると、機能的な便益で考えると他の似たような商品もあるのに、「こちらのほうが何となくいいな」と思ってもらえることですね。
たとえばユニクロなら、週末などによくチラシが発行されますが、チラシにユニクロのロゴがなければ他の衣料メーカーやスーパーでも出されているような訴求になっています。でも、ロゴがあることで「ユニクロのこの商品を買いたい」という積極的な購入意向が生まれます。ここには目的(1)として、ユニクロがこれまで積み上げてきた「ブランドの記号化」が効いています。
これに加えて、ユニクロでは最近ですと綾瀬はるかさんのようなタレントの起用などによって、情緒的な価値を付加しています。綾瀬はるかさんがユニクロの広告に出たからといって、ユニクロの商品の機能的な便益と独自性は変わりません。でも、「何となくいい」「素敵」「あんな風になりたい」という感情や情緒が喚起されます。これが目的(2)の、付加価値の創出による効果です。
自社が何を目的にするのか、明確化が重要
MZ:目的(1)の上に、目的(2)が重なっているのですね。
西口:はい。記憶化と、感情的・情緒的な便益と独自性の訴求をうまく組み合わせることで、ユニクロは付加価値、すなわち一般的にいわれるブランド力を高めているといえます。
綾瀬さんはチラシには出ず、テレビCMやWeb広告だけに出ていますよね。顧客は、機能面はシビアに見ますが、情緒面は文字通り感情の動きや心理的に受け止めるので、これらが混ざると伝えたいことがストレートに伝わらず、効果は減るはずです。
MZ:たしかに、綾瀬さんは広告だけに出ているほうが、情緒的な効果が高まりそうです。
西口:情緒的な効果を狙うなら、この点はよく考えないといけないですね。ユニクロは、この点を深く考え抜かれてブランディングされていると思います。
目的(1)と(2)は、直接的な販売につながるブランディングですが、目的(3)は少し異なります。これは「コーポレートブランディング」「インナーブランディング」などといわれるもので、顧客ではなく、従業員や株主、学生向けのリクルーティングに対して行われるブランディングです。
従業員には「この会社で働いていてよかった」という働くモチベーションの向上に、株主なら「投資したい」、学生なら「働いてみたい」と思ってもらうことが重要です。ただ、いずれにしても(1)の記憶化は土台です。
西口:大事なのは、3つの目的の違いを理解し、何の目的でブランディングをしているのかを明確にすることです。