従来のマーケティング活動と比較した結果
ブランド・リレーションシップによってもたらされる効果を、これまでのマーケティング活動と比較してみましょう。
伝統的なマーケティング活動では、大きく2つの心理的側面が重視されてきました。1つは「ブランド認知とセイリエンス」です。ブランド認知とは、そのブランドの存在を知ってもらうことです。ブランド・セイリエンスは顕著性ともいわれ、ブランドを常に意識してもらうことです。ブランド認知とセイリエンスを日常的な言葉に置き換えれば、「知名度」と「存在感」といえるでしょう。実務でよく行われる「リマインド」は、ブランド・セイリエンスを高い状態で維持するための活動です。
伝統的なマーケティング活動で重視されてきた、もう1つの側面は、「ブランド理解とブランド態度」です。ブランドについて適切に「理解」してもらうことで、好ましい印象形成が進み、その結果として、良い〜悪い(あるいは好き〜嫌い)という「ブランド態度」が形成されます。
ブランドリレーションシップの相対的効果モデル
こうした伝統的なマーケティング活動で重視されてきた効果と、ブランド・リレーションシップの効果を比較するために、私は図3のようなモデルを作りました。このモデルでは、「ブランド・セイリエンス」「ブランド態度」「ブランド・リレーションシップ」のそれぞれが「購買」「推奨」「支援」に及ぼす効果が、比較可能な形で示されます。
分析の結果はとてもクリアでした。図3の中の数字は影響力の強さを0〜1の間で示したものです(標準化偏回帰係数)。「購買」には、ブランド態度とブランド・リレーションシップが同程度の影響を及ぼしています。しかし「推奨」や「支援」に対する効果は、ほとんどがブランド・リレーションシップによるものです。
この結果から2つの重要な点がわかります。1つは、あるブランドを買い続けてもらうには、そのブランドをポジティブに評価してもらう(良い・好きと感じてもらう)ことも、愛着を抱いてもらう(絆を感じてもらう)ことも同じように大切であること。もう1つは、好ましいクチコミを発信してもらったり、ブランドのサポーターになってもらったりするには、そのブランドをポジティブに評価してもらうだけでは不十分であり、ブランド・リレーションシップを形成することが重要だということです。
クチコミ・推奨・支援にはブランド・リレーションシップが必須
上で述べた分析結果をより実践的な視点から見ると、伝統的なマーケティングが目指してきた「好ましいブランド態度の形成」は、確かに購買に影響を及ぼします。しかし「好ましいクチコミ」や「推奨」を促すこと、そしてブランドに対する「支援(情報提供や価値共創など)」には、ブランド・リレーションシップが欠かせないのです。
これは、SNSを中心としたデジタル・メディアが発達した現在において、非常に重要な意味をもっています。自社ブランドについてより良い書き込みをしてもらうには、伝統的なマーケティング活動だけでは不十分だということだからです。
好ましいクチコミを得たり、あるいは消費者からの提案などを期待したりするには、好感度を高めたり高めるだけでなく、ブランド・リレーションシップの形成を視野に入れる必要があります。
心の中にブルー・オーシャンを作る効果
ブランド・リレーションシップには、もう1つ忘れてはならない効果があります。競合ブランドとの比較を拒む効果です。これは、ブランド・リレーションシップの競争効果といえるものです。
たとえば自分の子どもに対して、「うちの子どもは特別だ。誰が何と言おうと、とにかく可愛い!」と思うものでしょう。典型的な「親ばか」とも言えますが、子どもだけでなく、大切なパートナーや、家族同様の存在であるペットにも、同じような気持ちは当てはまります。こうした例が示すのは、「それが自分と強く結びついているほど、あるいは愛着を抱いているものほど、私たちは特別に扱う」ということです。
ブランドに対しても同じです。ブランド・リレーションシップが形成され、自己との結びつきが生じると、無意識のうちに「別格化」されます。そして「他のブランドとは比べたくない」という気持ちが起きて、結果として他のブランドと比べられなくなります。
現代マーケティングの鍵となる3つの大きな効果
ブランド・リレーションシップが形成されると、本当にそのブランドは「別格化」されるでしょうか。データを使って確認してみましょう。
図4は私が行った分析の結果であり、数字は標準化偏回帰係数です。ブランド・リレーションシップが強まると、「比較忌避(他のブランドと比べたくないという気持ち)」が高まり、これによって「比較回避(他のブランドと比べないこと)」の傾向が強まることが示されています。また図4には、ブランド態度にはこうした効果が期待できないことも示されています。
この分析結果から読み取れるのは、ブランド・リレーションシップが形成されると、競合ブランドの存在が無視されることです。つまり製品自体が同じでも、愛着を抱かれることで、競合との競争を回避できます。消費者が自ら進んで、心の中にブルー・オーシャンを作ってくれるからです。
たとえば、かつてよく耳にした「Apple信者」をご存知でしょうか。彼らはApple製品を高く評価するとともに、競合であるMicrosoft(あるいはWindows)と比較することを嫌ったり、比べること自体がナンセンスといった態度でした。
「恋は盲目(love is blind)」という言葉もあります。シェイクスピアの「ヴェニスの商人」の一句です。愛する人ができると、周りが見えなくなってしまうように、愛するブランドができると、他のブランドが見えなくなります。こうして考えると、比較忌避という不思議な現象も、実はとても人間らしく、自然な現象に思えます。
自社ブランドの優位性のための大切な課題
今回はブランド・リレーションシップの効果について考えました。そして主な効果として、購買効果、推奨効果、支援効果、そして比較忌避効果があることを説明しました。また、これらのうち購買効果以外は、伝統的なブランド・マネジメント(あるいは従来型のマーケティング活動)では達成が難しいことも述べました。
ブランド・リレーションシップは現代マーケティングの鍵である、好ましいクチコミ、顧客との価値共創、競争の回避に大きな効果をもたらします。したがってそのマネジメントは、自社ブランドの優位性のための、大切な課題といえるでしょう。
ブランド・リレーションシップの効果が明らかになると、それがどのように形成され、維持されるのかも知りたくなります。そこで次回は、ブランド・リレーションシップを生み出す要因について考えていくことにしましょう。
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