※本記事は、2024年10月刊行の『MarkeZine』(雑誌)106号に掲載したものです
【特集】令和時代のシニアマーケティング
─ シニア・プレシニアのワーカーが急増。日本のスポットワークを牽引する「タイミー」が感じ取るインサイト
─ 日本ロレアルCCO・花王「サクセス」ブランドマネージャーが語るシニア世代へのアプローチと顧客体験
─ シニア市場はニッチの集積、シニアを知るための4つの切り口と時間の捉え方(本記事)
─ 1980年代の「新人類」がシニア期へ突入 シニアマーケが大きく変わる潮目を捉えよ
─ デジタルもアナログも 多様な接点を介してサントリーウエルネスが捉えるシニアの健康とインサイト
─ “リタイア後の楽しみ”ではない。「大人の休日倶楽部」に聞く、人生100年時代におけるシニア×旅
─ 誰もが自分らしい100年を生きるために UDを推進してきた三菱電機の「らく楽アシスト」
「シニア」の価値観を知る4つの切り口
──現在、シニアをどのように定義付けされていますか?
WHO(世界保健機関)などから様々なシニアの定義が出ていますが、シニアであるかどうかは人によって捉え方が異なります。また、本来は年齢によって区別されるものではないと考えています。ただ、企業様支援としてシニアという言葉を用いる際には、弊社オースタンスではおおよそ55〜70歳の方々を指しています。しかし、いわゆるデモグラとして年齢で一括りに扱うのではなく、顧客起点でインサイトをしっかりと把握してマーケティングを行うことが重要です。
──御社ではどのようにシニアのインサイトを把握しているのですか?
生理的側面・資源的側面・心理的側面・社会的側面の4つの観点から変化を探るようにしています(図1)。
たとえば、生理的側面でわかりやすいものが体の変化です。シワや白髪などの見た目の変化、消化器官の衰えが与える影響があります。一度に食べられる量が減ってしまうので、少量で栄養を摂りたい・食事でまかなえなくなった栄養を補いたいといったインサイトが生まれてきます。
収入といった資源的側面や、社会における自身の立場といった社会的側面も年を重ねるにつれ変化していきます。また、50代などシニアの中でも比較的若い層では自身に変化がなくとも、親や先輩を見て不安を感じ、将来に備えて予防したいといった心理的な変化も生まれます。
これらの変化を掛け合わせることでインサイトの把握とセグメントが可能になります。
シニアを知るには長い時間軸が重要
──今うかがった4つの側面からシニアを把握する際の注意点はありますか?
時間軸を長く取ることが重要です。たとえば、音が聞こえにくくなってきた方々に補聴器を訴求しても、見向きもしないセグメントがありました。過去を遡ってみると、その方々が20代の頃に流通していた補聴器は形状がヘッドホンで、装着していることがひと目でわかりました。さらに当時の補聴器は単純に音を大きくするもので、聴力の低下につながる弊害もありました。
現在、補聴器を忌避する方々は若い頃に補聴器を使う年配の方を見て「こんな格好悪いものはつけたくない」と感じる経験をしたり、「補聴器をつけるとさらに聞こえなくなる」というバイアスを持っていたりすることがわかりました。そこで補聴器を「イヤホン」のカテゴリーに位置付け、機能を訴求すると彼らの反応が変化しました。
このように、50〜70代が商品を買わない理由やサービスを利用しない理由は、過去の常識や価値観に基づいていることもあるため、時間軸を長く取って分析する必要があります。また、シニア層は家族や友人などのステークホルダー全体を捉えることも大切です。夫が購入に反対する、娘が勧めるから買うといったケースもあります。
──個人の価値観やステークホルダーとの関係性の把握は、企業にとって非常に難しいと思いますが、どのようにされていますか?
全世代に共通することですが、やはり地道なデプス調査が重要です。その前提として、顧客の状況をしっかり捉えることも大切です。モノやサービスが少ない時代は「こうなりたい」という理想と現在のギャップを単純に満たす商品を提供すれば売れていました。しかし、現在はそうはいきません。たとえば健康食品を提供するだけでは駄目で、健康になりたい人の背景にある心理や行動、事実をしっかりと捉える必要があります。
そのために弊社では、年間300~400人のシニア層をデプス調査し、セグメントごとに抽象化して情報を溜め続けています。