個別施策の効果を高めるために有用な手法は?
平尾:片や、マーケティングのパフォーマンスをギリギリまで上げるために、取り入れるとよい手法もあったりします。こちらは、田中さんに解説お願いできますか?
田中:はい、それでは私からは、「インクリメンタリティ」という概念についてご説明したいと思います。
インクリメンタリティとは、「広告を当てることで初めて生じたコンバージョン」を指します。その測定手法として、Metaではコンバージョンリフトを提供しています。これは、広告を配信したグループとしないグループとの差異を見るもので、これにより、広告を見たことでどれだけコンバージョンが増えたかがわかるようになっています。
直近の成功事例でいえば、「MX Player」さんがコンバージョンリフトの結果と、お客様側で計測されたラストクリックを比較した結果、コンバージョンの単価が56%も下がった例がありました。また、コンバージョン数に関してもラストクリックの2.3倍という結果が出ています。こうしたテスト結果から、長期のビジネス成長も可能なことがわかっており、継続的な活用が重要であるという点もお伝えしておきたいと思います。
松本:これまでのお話は、企業目線での検証にユーザー目線での検証をミックスさせた上で、事業を成長させるキードライバーを見つけようという内容でした。田中さんは冒頭で、効果検証と事業戦略を組み合わせることの重要性についても言及されていらっしゃいましたが、これを実現している企業例もあったりしますか?
田中:はい、韓国のゲーム企業「JoyCity」は、ATT(App Tracking Transparecy)の影響でiOSのキャンペーンのどれが成果を挙げているのかが見えづらいという事態に直面していました。そこで「Robyn」を使って月次予算を媒体間で決定し、アトリビューションを併用しながら週次のオペレーションを行ったところ、キャンペーンモデルの予測精度が95%まで向上し、ROASも8%向上。さらに、これまでの意思決定に比べて10~15%の効果改善が見られるという結果になりました。
効果検証と事業戦略が相互に重要であることがわかる良い例だと思います。また、Robynにはユーザー向けのコミュニティもあります。RobynやMMMについて、より詳しく知りたい方は、ぜひ覗いてみてください。
データサイエンスの考え方を自社に実装していくために
松本:ここまでの話を聞いて、「そんなこともできるのか」「今のアプローチから脱却せねば」と思われた方も多いと思います。一方で、事業活動にデータサイエンスを取り入れる際には、上位の役職者を説得する必要があるはずです。そこで、最後に無茶ぶりをしますが、データサイエンスの推進に向けて、役職者の後押しに効くようなメッセージがあれば教えていただけますか。
田中:そうですね、役職者もいきなり「体制を大幅に変える」という話をすると、きっと身構えられると思います。ですから「MMMが得意な領域に、少しずつ頼りませんか?」と伝えてみてはどうでしょうか。そうやって少しずつ変えていきながら、全体でどれぐらい伸びたのかをしっかり見ることが重要だと思います。
平尾:最近、データサイエンスに大きく舵を切った企業に共通しているのは「再現性」というキーワードが挙がっていることです。要は”狙って勝つ”ということなのですが、社内でもこういった表現を用いると「やりたい!」という方が出てきます。特に、自分が異動しても残るような再現性が欲しい、と考えられているマーケターが多い印象です。
松本:なるほど、そういう意味ではデータサイエンスは分析手法というよりも、勝つ確率を高め、それを再現するアプローチのひとつだと言えますね。
平尾:おっしゃるとおりです。この文脈で伝えれば「たしかに、これ以上の手法は思いつかないな」と、スッと腑に落ちると思います。