老舗企業サッポロHDの挑戦 社員の課題からアプリが誕生
1876年に創業、ビールをはじめとする酒類、食品飲料、不動産事業を展開するサッポロホールディングスは、新規事業の創出にも積極的に取り組んでいる。その一環として2019年に社内で開催されたのがサッポロビジネスコンテストだ。当該コンテストをきっかけに誕生したのが、家族のごはんをサポートするアプリ「うちれぴ」である。
「うちれぴ」は、入社以来、技術畑を歩んできた保坂氏をはじめとする現役パパ社員の「料理を誰でも楽々、楽しく取り組めるものにしたい」という思いから誕生。正式版は2022年7月にリリース、ダウンロード数は約13万、MAUは約3万となっている(2024年8月時点)。
数多くあるレシピ系サービスとの違いについて、保坂氏はこう語る。
「『うちれぴ』の特徴は、料理の作り手だけでなく、家族みんなで使うことを目指している点。レシピの紹介だけでなく、料理を軸に家族間のコミュニケーションを促進するチャット機能や、家族で日々の食事体験を記録する機能なども実装しています」
購買データのみでは、商品の消費実態がわからない
「うちれぴ」は他の企業との連携に力を入れている。たとえば、60社以上の食品メーカーと提携し、商品を活用したレシピを掲載。ユーザーは信頼性の高い、失敗の少ないレシピを参考にできるほか、調味料の新たな使用法を知ることが可能だ。メーカー側としても自社コンテンツの露出を増やせるというメリットを享受でき、三方良しの関係を構築している。他にも、電子レシートアプリや調理家電を展開する企業と連携することで、買い物から調理までのプロセスを一気通貫につなげる「スマートライフ」の提供も試みている。
このような取り組みを続けることで、「うちれぴ」は様々なデータを取得、活用できるように。それらを基に、多くの消費財メーカーが抱える課題の解決に挑戦しているという。
「うちれぴ」のデータが解決できる課題とは何か。保坂氏は消費財メーカーにおける現状と課題を改めて整理する。
多くのメーカーは、日々、多種多様なデータや手法を用いて市場や顧客分析を行っている。中でも、広く使われているのが購買データだろう。しかし、購買データは市場動向を把握できても、消費者の購買後の行動、たとえば商品の消費実態を把握することは困難だとされている。アンケートやグループインタビューといった調査手法はあるものの、これらはあくまで回答時点での消費者インサイトを把握するためのものであり、継続的な変化や変化の兆しを捉えることは難しいと考えられている。
継続的な変化やその兆しを捉える手法として、特定の利用シーンに焦点を当て、同一の消費者を継続的に追跡調査することが挙げられる。まさに買い物から調理まで料理にまつわる一連のプロセスのデータを取得する「うちれぴ」が実現できることだ。
「『うちれぴ』では、料理に関するあらゆるシーンを連続的に把握し、『食』に関する変化の兆しを捉えることにチャレンジしています」
メーカーがこれまで知りたくてもなかなか知る機会を得られなかったという一連のデータ。実務者にとってこれが具体的に何を意味し、ここからどんな示唆が読み解けるのか。